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バレンタイン編 9
「個人的なの受け取ってたらキリがないし、僕のお客さんにはそういうルールにしてる。それに…」
涼が黒沢の頬を撫で、ゆっくりと距離を詰めてくる。
ちゅ、
可愛らしい音をたてて唇へキスをした。
黒沢はただ、固まるしか出来なかった。
「それに、僕にはもう本命がいるからね」
涼は綺麗に笑う。
「はい、これ。 ハッピーバレンタイン、俊一さん」
固まる黒沢の目の前にラッピングされた箱が差し出された。
「こ、れを、俺に…?」
漸く発せられた声は震えていてなんだか情けない。
涼は静かに頷く。
箱を見つめ、感動しているとハタと思い出した。
自分も渡すはずだったじゃないか。
涼に先を越されてしまった。
自分は悩みに悩んだ末にバレンタインコーナーに赴き買って選び、渡すのに緊張しているというのに。
すんなりと渡されてしまった。
てっきり、そんなことなど考えていないのかとばかり……。
こういうことに関しては涼の方が数段上手のようだ。
これではどちらが男前なのか。
「俊一さん?」
何も反応がない黒沢を怪訝に思ったのか、涼が黒沢の顔を覗き込む。
俯いたままだった顔を上げた黒沢は何かを決心したように涼を見つめた。
そして
「涼くん」
真剣な表情で涼の手を握った。
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