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バレンタイン編 11

その顔に、黒沢も笑みを返す。 「食事を終えたら、二人で食べようか」 「うん」 食事を終え、二人はお互いの箱を開ける。 「何これ、可愛い!」 黒沢が贈ったのは有名チョコレートブランドのもの。 真ん中にあるルージュのハートが目をひく。 味は勿論、見た目も可愛らしく女性受けしそうである。 それから蓋の裏側にはメッセージカードと薔薇のブリザーブドフラワーが添えられていた。 「本当にありがとう、俊一さん」 「どういたしまして。 さて、こちらは」 「ほう、これは美味しそうだ」 涼が贈ったものはトリュフチョコレート。 どこのものかは不明だが 六粒入っていて、どれも違う味のようだ。 箱にはどうやら説明が書かれた紙がある。 日本茶味らしい。 一つ、口に放ると抹茶の苦味と甘みがいい塩梅に広がって美味だ。 チョコレートもビターなのだろう 甘いのが苦手な黒沢も食べやすい。 「うん、美味しいよ、涼くん。いや、ショコラティエ?」 言われてギクリとする。 「え、嘘、分かっちゃったの?」 「ああ、勿論。 俺が君の手作りに気づかないわけがないだろう?」 クスクスと笑いながらもう一粒と口に放る。 言い当てられた涼は恥ずかしそうにそっぽを向いた。 「もう……」 黒い箱が包装紙でラッピングされ、赤いリボンまでされてあり、中身は店の物のように綺麗に並べられている。 味だって、本物の職人には劣るが手が込んでいて見事なもの。 既製品と言っても過言ではない出来だ。 だが、黒沢には分かった。 既製品であれば一箱の中でも好みの味とそうでないものが分かれる。 しかし、これは黒沢の口に合わせて作られたものだと分かった。 今までどれくらい彼の手料理を食べてきたと思っているのか。 恋人の自分に彼の味が分からないはずがなかった。

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