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202x.6.20(2.5h) うるさかったこと

 昨日はあれから興も乗ってカウチの上でイチャイチャ、ロリポップよりももっと良い物を口に入れたいと言うことで、マーロンのものをしゃぶらせてもらった。そうなるともう、辛抱が出来なくなる。脱いだTシャツを床へ投げ捨て、彼の手を掴んで、膨らみ始めているジーンズの前立てへ導いた。あんたが抱くのは男の俺だ、しかも身体はこんなに興奮して、ホットになっている。これをあんたは自由にしていいのだと教える為に。  マーロンは「寝室に行こう」と言ったが、もう俺としてはすっかり熱くなって、部屋を移る短い距離すら惜しかった。それに囁く彼の唇は、フェラチオの間じゅう緩く噛みしめられて赤く充血している上、薄くまぶされた唾液がてらてらと艶めいていて、抑えが効かなくなる。まだ口の中へ精液の粘つきが残っていることも忘れて、吸いついてしまうほどには。  俺ががらがらの声を一層掠れさせ、鼻を鳴らして「いやだね」と訴えれば、マーロンはおおよそのことを聞き入れてくれる。今も煩わしげに首を振り、額に張り付いた髪を払うのが、降参の合図だ。握りしめていたパイプをテーブルへ乗せると、スマートフォンに向かって「ヘイシリ、何か音楽」と呼びかける。すぐさまオール・アメリカン・リジェクツの『ダーティ・リトル・シークレット』が大音量で流れ出した。  そのまま彼が唇を寄せて来たから、最初は我慢していた。けれど舌も入れないうちに、やっぱり堪えられなくなって「消してくれ」と頼んだ。 「これ嫌い?」 「ああ」  これでも俺は、どうせセックスするなら、例えコミュニケーションだけが目的であっても、真剣に取り組みたいと思っている。騒がしいと集中できなかった。BGMも静かな曲調の音楽をある程度絞ってならいい、でもオール・アメリカン・リジェクツは駄目だ。曲自体は嫌いという訳じゃない、どちらかと言えば好きな方かも知れない。  ただ、勝手な偏見だが、あのバンドの曲を聴きながらやるのは、ハイスクールの学生みたいだと思う。  マーロンは立てた片膝の上に頬杖をつき、ふっと鼻先で笑った。 「じゃあデュア・リパならいいのか」 「確かにエロい気分にはなるかもな」  「曲止めて」とスマートフォンに命じた後、やってくる静寂の気まずさと言ったらない。幸い、マーロンはううん、と短く唸った後、血の気が上った頬を掻きながら口を開いた。 「あのさ、俺もつい最近まで知らなかったんだけど。この部屋、わりと音が響くらしいんだ」  その事実を数日前、非常に申し訳なさそうな顔で教えてくれたのは、斜め向かいの部屋へ住むゴールドマン・サックスの証券マンらしい。ワンフロアに6室しかないフラットで、そこまで届いていたということは、つまり階全体に響き渡ってたって意味じゃないか。青ざめる俺に、マーロンは「彼はたまたま部屋の前を通りかかったから聞こえたらしい」と付け足した。 「それを聞いて、試してみた。この居間とか、風呂場とか、寝室とか、色々なところに音楽が流れてるスマートフォンを置いて……で、多分だが、外まで音が漏れるのは居間だけだ。たぶん部屋の間取り上、音が抜けやすいんだろう」 「なら最初から、そう言ってくれれば良かったのに」 「まあ、そうだな」  これだけならば笑い話で済む。問題はその後、寝室へ行き、たっぷり楽しんでからの話だ。  ぐったりとベッドに伸びながら、そろそろ起きて帰る準備をしなければと考えていた時のことだった。パイプをくわえながら、マーロンは唐突に言った。 「これは別に悪いってことじゃ無いんだけど。おまえ、やってる最中の声が大きいね」  もう一度「悪いって言ってる訳じゃない、感じてくれるのは嬉しいし、可愛い」と言い添える口調に、少し苛立ちが混じっているのは、煙草の葉に上手く火が回らないからだろう。暗闇の中、ライターのカチカチ言う音が、微かな鈍痛の蔓延る頭を小突く。  これに関しては、そうなんじゃないかと前々から思っていた。今まで何人か寝たことのある男は、タチでもネコでもそこまで大声を出していなかった。  女の子ではいた。身体にペニスを入れられて揺さぶられるんだ。突き込まれた分、声が押し出されるのは当然のことだし、中には感情がぐちゃぐちゃになって泣いてしまう子もいた。そんな彼女達に、俺は今のマーロンと同じく「可愛いよ」と本心から言ったものだ。  赤らめた顔を歪め「恥ずかしい」と呟く態度は、照れ隠しだと思っていた。そうじゃない、恥ずかしいと言ったら、実際にそれだけの意味なのだ。今更ながら、彼女達への申し訳なさで一杯になる。  マーロンに触れられ、彼の肌へ触れると、重なり合った場所はじぃんと響き、身体の熱がさっと上がる感覚に襲われることが多々あった。くすぐったくて笑い出したくなる時と似ているが、もっと心は痛いような幸福で満ちる。  他愛ないペッティングだけでもぞくぞく来るのに、はめられようものならもう駄目だ。快楽をひたすら追い求めて、周りなど見えはしない。与えられる気持ちよさで馬鹿になり、「いい」と「もっと」と「激しく」位しか頭の中に残らなくなる。それに感覚を言葉にして自らの耳へ入れ、認識させることで、その状態により深く浸れるから、つい調子に乗ってしまうのだ。 「あんたは、うるさいの、好きじゃない?」 「いいや」  衣擦れと共に、かつんとパイプを噛んだらしい音が届く。暗がりの中、もくもくと吹き上げられた紫煙が、カーテン越しの薄明かりに溶けていた。なだらかな顔の輪郭がくっきりしていたということは、あのとき、彼はそっぽを向いていたに違いない。 「彼女も、わりと騒がしかったよ」  俺が一番聞きたくない言葉であると、マーロンは知っていたのだろう。だからこそ、それは渋々発したような物言いで静寂に響いた。  彼女とは、音楽をかけながらやった? もしもご近所さんに忠言されても、知ったことかと笑い飛ばし、寧ろ見せつける真似をした?  そんなことを考えても仕方がないと分かっている。けれど、象のことを考えるなと言われた瞬間、その人間の脳が長い鼻を連想してしまうように、妄執は膨らむばかりだった。  黙りこくった俺を宥めようと、マーロンはヤニ臭い唇で頬にキスをくれた。セックスの後の煙草、フェラチオされて叫び散らす代わりに鼻から漏れる密やかでセクシーな呻き、死んだ奥さんへの忠誠。  彼の大真面目で、サマになっているかっこ付けが、俺は時々大嫌いになる。もっと二人で、恥も外見もなくけだもののようになりたい。俺はとっくに、そうなる準備が出来ている。  それにしても、そんなに響く最中の俺の声とは、一体どんなものなのだろう。逆に気になってきた。今度録音してみようと思う。  ググっても「そう言う場合に声を小さくする方法」なんて出てこないし……モーテルへ行けだとか、玩具を噛んでみろとか、全く建設的ではないことばかり書いてある。これだからインターネットなんてもの、役に立たないというのだ。

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