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202x.6.30(3h+2/2) クラブ32のVIPルーム 2

 やがて店の奥の奥に開いている部屋を見つけて雪崩れ込んだ時には、俺は既に、緩くだが勃起していた。  俺の記憶が正しければ、そこはジャミロクワイの有名なPVに出てくる部屋とそっくりだった。打ちっ放しの壁に、床はタイル式のカーペット、殺風景な内装の真ん中に、黒い革張りのカウチが一つ。空気は明らかに変な匂いがした。  違うのは、カウチと対面する壁の半分ほどに、大きなガラスが張られていたことだ。見えている隣の部屋は、精神に異常を来した捕虜の隔離部屋みたく、壁にはクッションが張ってあった。深海ほども青い照明のせいで、中にいる人間の肌がやたらと白く、くっきり浮かび上がって見えた。  つまり、彼女は白人で、ほぼ裸同然だということだ。 「見間違いじゃなきゃ、あそこにいるの、歌手のラフィーか」 「ああ。それで、彼女のアレを舐めてるのは、彼女の作曲家の……」  マーロンはしばらく考え込んでいたが、やがて「忘れた」と口の中で言葉を縺れさせる。俺が持っていたグラスを取り上げ、中身を一口含んで顔をしかめると、床へ乱暴に置いた。 「こういうところのカウチは汚れてるのが難点だな」 「汚れたって構わないだろ」  突き飛ばすようにして彼をカウチへ押し込み、膝へ跨がった。ジーンズのベルトを外そうとじたばたしていると、マーロンはご機嫌に喉を鳴らし、シャツ越しに浮いていた俺の乳首をきゅっと捻り上げた。そんなことをされると、びくびくと肩が跳ねて、手が止まってしまう。そのくせ彼は「エディは本当に可愛いな」と囁くのだ。あんなにも艶めいた声で、「気持ちよくなろう」と誘われて、頷かない人間がいると思えない。  取り出したお互いのペニスを擦り付け合うだけで、目眩がするほど気持ちよかった。階上にあるダンスフロアのずしんずしんと重い地響きに、ぐちゃぐちゃ言う水音が混ざり、やがて荒い呼吸が被せられる。  彼は汚れた手で俺の身体を撫で回した。シャツの中にまで滑り込ませた掌に胸を揉まれると、心臓を直接鷲掴まれているかのように感じた。興奮し過ぎて身体のどこにどう触られても痛い、痺れる。  身体の関係を持つに当たって、マーロンに男とやった経験はあるのかと尋ねた。彼は長々と考え込んで、0とは言わない、と答えた。じゃあ上等だ、あんたはペニスを勃たせてさえいればいいと俺が請け合い、僅か一年足らず。慎重に俺の身体へ触れていた昔と違い、今の彼は立派に男を悦ばせることが出来る。元々器用で飲み込みが早く、人の機微を細やかに読み取れる性質だ。女性とのセックスも上手かったんだと思う。それは褒めるべきなのだが、俺以外の相手には二度と発揮しないで欲しい。  俺の弱い括れの部分を自分の鬼頭で突き、掌で先端を丸ごと握りしめては親指で穴をくじく。思わず喘ぎ声を漏らし、慌てて片手で口を塞いだが、マーロンは「誰も聞いてない」とすぐに外させた。 「ラフィーに興味ないの」 「ない…っ、全然……」  これだけ昂っていたら他人のことなんか構っていられない。当たり前のことを口にしただけなのに、マーロンは心底意外だと言わんばかりに片眉を吊り上げた。「へえ、そう」と低く呟いて、睾丸をきつく指の腹で圧してきた。お陰で喉の奥が引き攣れて変な声を出してしまう。 「あんたこそ……」  俺が詰れば、彼はちらっと俺の肩越しに視線を走らせ、スカした仕草で肩を竦めた。 「目新しいものでもないな」  快感でへろへろになって、半ケツ状態のジーンズから財布を引っ張り出して避妊具を探すのも覚束なかった。俺が余りもたついていたから、マーロンが自分の財布から2つ取り出して手早く被せた。いつも外でやる時、彼が財布からこの小さい綴りを取り出すのを見ると、俺は何だかしょっぱい気分になる。  最後は片手で腰を掴んで引き寄せられ、彼も尻を浮かして身体を押し付けてきて、さながらアナルを使ってやっている時のようだった。一度か二度からかうように股の間へ彼のペニスを差し込まれたから、感覚がぐちゃぐちゃになって、「なんで外に」と一瞬混乱した程だ。  彼の耳元へ頬を押し付けた時、鼻へ流れ込んできた洋梨の芳香に朦朧とした。下腹がズキズキ響くようなのに気持ちがいいと言う不思議な感覚。マーロンの唇が一瞬項を掠める。  膝から力が抜けるような射精が終わり、彼の身体に倒れ込む。押し潰されて、マーロンは苦しげな呻きを上げた。  俺は目を閉じて爽やかな洋梨や生臭い精液の匂いを胸一杯に吸い込み、汗ばんだ彼の体温を味わっていた。けれどマーロンのぼうっと滲んた目は俺を見ていなかった。愉快そうに肩を揺すり、足元のグラスを蹴り倒す。 「6、7年くらい前に、バーバリーのモデルやってた男が『スタイルズ・クラブ』のトイレで15人位の女に取り囲まれて、色々な体位で尻に玩具を突っ込まれてたのを写真に撮られてさ。カメラマンの奴、よりによって弁護士に売りやがったんだ。買取に滅茶苦茶苦労した」 「へえ……」 「モデルがどうなろうと知ったこっちゃ無いけど、周りで囃し立てる観戦者もばっちり顔が写ってたから……ナッティ・レデラーとか、うちの事務所の人間が何人か」 「そうか……」  頭がぐらぐらする。ずるずると彼から身を離し、ソファへ転がった。窓の向こうで壁に押しつけられたラフィーは、男の腰に脚を回しながら、間違いなくこちらを見ていた。ヒット曲を連発してる彼女が、一般庶民に興味を持つとは。  避妊具を外して口を縛り、床へ投げ捨てると、マーロンは窓を顎でしゃくった。 「彼女も、お前を可愛いと思ってるよ。やりたがってる。見せつけてやろう」  俺も彼も、相当酔っていた。  それに、あの歌姫に求められるなんて、正直滅茶苦茶気分が良いじゃないか。マーロンだってきっと、俺を自慢に思っていたに違いない。  窓に手を突いていろと言われて、良い子にして言う通りにしたら、後ろから覆い被さったマーロンの手でいかされた。ジーンズの履き口から手を突っ込まれ、加減のない、雑な動きで擦り立てられる。蒸れたデニムの中で体温の低い彼の手が、時折下腹と生え際の境目に当たったり、内股を押したり、不自由な動きを作るのは、もどかしくていっそ良かった。  流石に大声を出したら向こうに聞こえそうで、たくし上げたTシャツの裾をずっと噛んでいたのもまた、エキサイティングだ。  息で曇る窓の向こうで、ラフィーはにっこり笑った。ファックの真っ最中とは思えない、少女じみて無垢な顔付きの中、額に浮かんだ汗が凄くエロティックで、見惚れてしまった。彼女を抱く男の方もちらっとこっちを見て、微笑みかけてくる。  最後の辺りは体勢も崩れ、額を冷たいガラスへ押し当てて絶頂へと集中していた。と、不意に後ろから髪を掴まれ、顔を上げさせられる。仰反る体勢に、それまで腹の奥へ蟠っていた快感が、一気に全身へ流れたような感覚に襲われる。ちらりと視界に入ったマーロンは、やはりとろんとした目つき、無意識の舌舐めずりが壮絶にエロくて、指先までビリビリとしたオーガズムが走った。  窓ガラスへ複雑な模様を描く精液を目にした時は、まずいと思ったが、止められる訳もなく、それに剥き出しの尻へ押しつけられたマーロンの体温が。  虚脱の時間は長かった。噛み締めていた顎の力を無理やり緩めれば、シャツの裾がすとんと落ちる。唾液に濡れた裾が、酷く熱っぽい胸元にぺったり張り付いて気持ち悪かった。  膜を張ったような耳へ徐々にフロアの振動が戻ってくる。荒げた呼吸が落ち着いてきた頃には、向こうの部屋から人もいなくなっていた。  マーロンは「そのままで良いだろ」と信じられないことを言うから、怒りまくって借りたハンカチで窓を擦った。それでも射精の量が凄すぎて、完全に拭い取ることは難しい。ねっとりした曇りが、ガラスを覆っていた。  代謝が良くなることをした上、血の気が引くほど慌てふためいたせいで、酔いも醒めたと思っていた。だがその時の俺は、まだ素面へなど全く戻っていなかったらしい。  置き忘れたハンカチと下着で身元が割れることは無いだろうか。もしそんな事になったら死んでしまう。  一回しか出していないマーロンがふらふらになり、俺は気持ちいいことをしてすっかり気分も爽快。それから上の階へ戻って、店が閉まる4時までまた踊っていた。「お前の体力バケモンかよ、軍隊ってそんな凄い訓練してるのか」と揶揄するテンは鼻に何か粉を付けていたし、俺と踊っていた子も明らかに何か効かせていた。  飲んではしゃいでのお祭り騒ぎ。祭りが終われば静かさは際立つ。帰りのタクシーの中では誰もが死んだようにぐったりしていた。無事にマーロンのフラットへ戻れたのが奇跡のようなものだ。いや、可哀想にジョシュは家の鍵を無くしたらしい。先程テキストが来ていた。  そのまま2人でベッドに潜り込み、目が覚めたのは昼前。マーロンがアルカセルツァーかアスピリンをくれとベッドの中で呻いている。残念ながらどちらも品切れだったので、2ブロック向こうの薬局まで今から買いに行く。ついでに昼飯も何か調達してこよう。  確かに恐ろしく刺激的な夜だったが、何となく物足りない。最近、彼とセックスするとなると、最後はやはりアナルに挿れられたいと思ってしまう。薬を飲ませて、飯を食ったら……マーロンも睡眠を取って体力が回復したはずだ、きっと大丈夫だろう。

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