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第一章・6
「お客様、お忘れ物です!」
急いでドアを開け店外へ出てみると、そこには黒塗りのセンチュリーに乗り込む真輝の姿があった。
滑らかに窓が開き、真輝は顔を出して手をひらひらさせた。
「忘れ物じゃない、君へのチップだ。少なくて悪いが」
「いただけません、お財布ごとだなんて!」
沙穂は必死で叫んだが、高級車はそのまま立ち去ってしまった。
「どうしよう、これ……」
とにかく店に入り、マスターに訳を話し、財布の中身を確認すると。
「怖いよ、白洲くん。300万円入ってる!」
「さん……!?」
目を白黒させる沙穂に、マスターは呑気に語った。
「いやぁ、実在するんだね。いや、こういうお金持ちの話、聞いたことがあってさ」
ある金満家は部下と飲みに行き、先に帰るからこれで払っとけ、と長財布をそのまま渡してくれるらしい。
「でね、やっぱり300万円くらい入ってるんだって。そういう奢り用の財布を、いつも持ち歩いてるんだって」
「はぁ~」
とんだ人と関わってしまった、と沙穂は溜息をついた。
「貰っちゃえば?」
「できませんよ、そんなこと」
もしかして、またこの店を訪ねてくれるかもしれない、と沙穂は財布を預かることにした。
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