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第一章・7

(もう一度、会えるといいな)  そんな風に、沙穂は思った。  素敵な人だった。  申し分のない整った顔立ちに、品の良いスーツ。  やたらと匂いを気にする人だったが、彼からも落ち着いたコロンが香っていた。  背は高いし、ひ弱そうでない引き締まった体つき。  何より、僕がシャツを毎日洗っていることに、気づいてくれた。  褒めてくれた。 「何か、報われたな」  カフェで働いている以上、様々な客と出会い、別れる。  中には無理難題を吹っかけて来る人間もいるし、名刺を握らせあからさまに誘ってくる者もいる。  そういう類は、二度と会いたくない客だ。 (あのお客様も、大金の入った財布を置いて行った、困った人だけど)  あの人には、もう一度会いたい。  でも……。 「あの人、きっとαだよね。僕がΩだって知ったら、嫌がるかも」  すん、と沙穂は鼻を吸った。  第二性がΩの沙穂は、小さい頃から苦労してきた。  家庭の事情で大学進学も諦め、カフェでバイトをしながら自動車学校へ通う資金を稼いでいる。  真輝の残した300万円は、欲しくないと言えば嘘になる。 「でもそんな大金を、出会ってすぐの人に貰ういわれが無いから」  名前も告げずに、消えた男性。  それが運命の始まりだ、とはまだ気づかない沙穂だった。

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