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第二章 バラの花束と共に
滑るように走るセンチュリーは、真輝を次第に日常へと戻していった。
全く、あの体調不良はどこからやって来て、どこへ行ってしまったのか。
「ともあれ、私の自己管理不行き届きだな」
一日の日課を、見直さなければ。
それから、念のため医師にも診てもらおう。
頭は調子よく回転を始め、すっかりいつもの真輝に戻るところだった。
あの姿を思い出すまでは。
「白洲 沙穂、か」
彼のおかげで、窮地を乗り越えたのだ。
チップとして財布を置いてはきたが……。
「彼への謝意は、あの程度では表せないな」
『では、すぐに救急車を手配いたします』
迅速かつ、正確な対応だった。
自分が彼の立場でも、そうしただろう。
「利発な子だ」
うん、と真輝は一人で頷いていた。
それから、あの良い匂い。
清潔感あふれる、ナチュラルな香りが真輝の悪寒を拭い去ったのだ。
『はい。お客様の前に出る以上、清潔でなくてはなりませんから』
勤めに、誇りを持っている。
私も彼と同じく、同じシャツには二度袖を通さない。
「しっかりした子だ」
うんうん、と真輝は一人で頷いていた。
沙穂のことを考えるあまり、車が停まったことにも気づかないくらいだった。
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