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第二章・3
「実は、その店に世話になった青年がいる。コーヒーをこぼしてしまった私に、親切にしてくれたのだ」
「左様でございますか」
巧みに嘘をついた真輝は、その青年・白洲 沙穂氏宛てにパーティーの招待状を用意するよう命じた。
「よろしければ、メッセンジャーに届けるようにいたしますが」
「ん? いや、それは。コホン。私が自分で渡すので、気にしないように」
「かしこまりました」
うやうやしく御辞儀などしながらも、武井は目まぐるしく思いを巡らせていた。
(おそらく、そのカフェに真輝さまの意中の人物がいるに違いない!)
幾多の人間と深い関係を持ちながら、のらりくらりと結婚を避け続けてきた真輝。
赤子の頃から見守ってきたこの主人も、あと一年で30歳になる。
(今度こそ、今度こそは、ご成婚なさっていただきますぞ!)
武井は、胸の内で炎を燃やしていた。
フラワーショップで直に花を見る、という名目で外出し、胡蝶蘭の鉢を抱えてカフェを訪ねた。
その目で、白洲 沙穂なる人物を確かめるためだった。
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