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第二章・4
「カフェ・せせらぎ。ここですな」
武井は鉢を持ち直し、背筋を伸ばしてドアを開けた。
室内には穏やかなジャズが流れ、香ばしいコーヒーの匂いが漂っている。
木の良さを前面に押し出し、装飾の少ない内装だ。
カウンター奥には、マスターとおぼしき中年の男性が立っており、武井を円い目で見ていた。
「わたくし、源家に仕える武井と申します」
「え!? は、はい」
源家と言えば、世界にも通用する華族。
そんな上級国民が、こんな街カフェに何の用!?
「当主の真輝さまより、これを。先だっての親切の御礼、とのことにございます」
「これは結構なものを。返って申し訳ございません」
「品の良いお店でいらっしゃいますね。この胡蝶蘭が、よくお似合いです」
「ありがとうございます」
ところで、と武井は彼なりの本題に入った。
「白洲 沙穂さまは、おいでですかな?」
「白洲、ですか。はい、もうじき帰ると思います」
今、配達に行っている、との沙穂は、どのような人物か。
武井は、さりげなさを装ってマスターに訊ねてみた。
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