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第二章・5

「このように洒落た店で働くとなると、白洲氏も上品な方でいらっしゃるので?」 「そうですね、清潔感のある子ですよ。人一倍よく働きますし、愛想もいい」  すっかりこの店の、看板です。  そんな風に、マスターは沙穂を評した。 (上司に信頼の厚い人物、か。これは期待できそうですぞ)  しかし、真輝の隣に似合う人間となると、人柄だけでは決めかねる。  その容姿も、武井の眼鏡にかなわなくてはならないのだ。 (面食いの真輝さまであられるので、心惹かれたお相手はおそらくそれなりに美しいのではあろうが)  一抹の不安は残る、と武井が案じた矢先に、ドアベルが鳴った。 「ただいま帰りました」 「ありがとう、白洲くん。お客様が見えてるよ」  お客様? とカウンターに近づいてくる青年を見て、武井は心の中で星を四つ半つけた。  まだ幼さの残る、初々しいまなざし。  ふわりと流された、栗色の髪。  なだらかな鼻梁に、整った唇。 (合格だ!)  武井は、うやうやしく一礼した。 「白洲さま、わたくしは源家に仕える執事、武井と申します」 「え!? は、はい」  マスターと同じリアクションの沙穂を、可笑しく思った。  そうだろう。  源家の名を出せば、庶民はたいていこのような反応。  武井が沙穂に星を半分だけ欠いたのは、その庶民性が理由だった。

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