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第二章・6
容姿は確かに、申し分ない。
だが、その身なりは。
(コットンのシャツ、か)
残念だが、真輝さまのお相手となるには、普段からシルクを身につけていなければ。
それだけの財力も、家名もない、一庶民。
「先だっては、我が主人・源 真輝さまが大層お世話になりましたとか。わたくしからも、御礼をと思いまして」
「見てよ、こんな立派な鉢植えいただいちゃったよ」
かしこまった武井と、ご機嫌なマスター。
二人を交互に見た後、沙穂は慌ててカフェエプロンから長財布を取り出した。
「これ! お預かりした忘れ物です!」
「これは……」
真輝の性根と癖を知らない武井ではない。
300万円の入った財布を目にして、心の中で渋い顔をした。
(また真輝さまは、こんな散財を。しかも、初対面の青年相手に!)
表面では穏やかさを取り繕い、武井は財布を受け取ろうとはしなかった。
「それはもう、あなた様のもの。わたくしが受け取れば、真輝さまからお叱りを受けてしまいます」
「でも、僕も困ります。こんな大金」
「どうか、お納めください」
「持って帰ってください!」
二人でわぁわぁ言っていると、涼やかなドアベルの音がした。
「いらっしゃいませ!」
反射的に明るい声をあげた沙穂だったが、開いた口が塞がらなかった。
店内に入って来たのは、真輝その人だったのだ。
手には大きなバラの花束を持って、混沌としたその場で、一人だけ颯爽と立っていた。
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