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第三章 恋人同士!?
「あなたは!」
「先ほどは、すまなかったね。白洲くん」
優雅な所作で真輝が奥へ進むたびに、コーヒーの香りはバラの甘い匂いに取って代わった。
「具合は、よろしいのですが?」
「この通り、もうすっかり元気だ。君のおかげだよ」
よかった、と沙穂は表情を緩めたが、武井の顔つきは引き締まった。
「真輝さま。具合、とは? 元気、とは?」
しまった、と真輝は思ったが、こうなっては彼を欺くことはできないだろう。
「実はここにいる白洲くんに、急な体調不良を介抱してもらったのだ」
「そんな大切なことを、この武井に黙っておいでだったとは!」
「解った解った。後程ドクターに診てもらうよ。それより」
真輝は大きなバラの花束を、沙穂に差し出した。
「君に、この花束を。それから、これを」
花に埋もれながら、沙穂は美しい箔押しの施された白い封筒を受け取った。
「10日後、我が源家でパーティーが開かれる。その招待状だ」
来てくれるね、と微笑む真輝の笑顔は、腰が砕けるほど麗しい。
でも、と沙穂は思った。
(源家の方と言えば、よく浮名を流しておいでだ)
この国で有数の資産家、そして妙齢の真輝は、パートナー候補がよくマスコミで取り沙汰されていた。
熱愛だの、破局だの、と賑やかに。
(バラの花束をくださったということは、僕に好意を抱いていらっしゃるということなんだろうけど)
身分違いも甚だしい、と沙穂は唇を噛んだ。
ほのかな想いには、その場で蓋をした。
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