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第三章・2

「ありがとうございます。でも僕は、一介の庶民です。源さまのお屋敷にお邪魔するなんて、とても」 (何て奥ゆかしい。やはり、素敵な子だ)  これまで付き合った者の中には、庶民に近い家柄の人間もいた。  そういった者ほど、源家の当主とお付き合いできることに、尻尾を振って飛びついてきたというのに。 「それより、このお財布をお返しします。やはり僕には、受け取れません」 「まだ言うか。そうだ、それをパーティーの支度金にしたまえ。エステに行き、髪を整え、フォーマルスーツを用意して」  本来なら、そういったことも私が用意すべきなのだろうが、と真輝は言う。 「君があんまり強情なものだから、致し方ない」 (強情なのは、源さまなんだけどな)  半ばあきらめの心地は、沙穂の財布を持った腕をわずかに下げた。 「では、行こうか」 「どこへです!?」 「エステサロンと美容院と、テーラーだ。マスター、すまないが白洲くんを借りるよ」 「いや、その。僕は今、勤務中です!」  沙穂は必死でマスターにすがったが、彼はにこにこと相変わらずご機嫌だ。  何せ、超有名人の富豪・源 真輝がお客様になってくれたのだ。  もしかすると、常連になってくださるかも、との思いに口元はほころんだ。 「白洲くん、構わないから行っておいで」 「マスター!」  あれよあれよという間に、沙穂は真輝に腕を取られ店外へと連れ出された。

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