16 / 98
第三章・3
エステで肌を磨き上げ、美容院で髪を整え、テーラーでスーツを買う。
「できれば、フルオーダーを君に贈りたいのだが」
「既製品で充分です。日もありませんし」
それでも袖や裾を直したりと、店主は気を配ってくれた。
「他ならぬ、源さまのお連れ様ですからね」
できる限りのことはいたします、と笑顔だ。
「ありがとうございます」
その言葉に、店主は少し驚いたように首を上げた。
しかし、すぐに笑顔で作業に戻った。
(何だったんだろう、今のは)
不思議な店主の仕草に、沙穂は首をかしげたが、訊ねるのもおかしな気がしたので黙っていた。
「二日後に、仕上がります」
店主の言葉に我に返った沙穂は、頭を下げた。
「ありがとうございます。では、その日に受け取りにうかがいま……」
「仕上がったら、屋敷へ届けてくれ」
突然、真輝が横から入って来た。
「かしこまりました」
「いえ、あの! 屋敷、って!? かしこまりました、って!?」
慌てる沙穂をよそに、真輝はそっと彼の肩に手を置いた。
「白洲くん、君は今日からパーティーの日まで、源の家で過ごすんだ」
「なぜです!?」
「作法を、身につけてもらう。君のためだ。社交界で、恥をかきたくはないだろう?」
あ、そういう……、こと?
何だか強引ではあるが、確かにマナーは身に着けなくてはならないだろう。
それでも沙穂は、キツネにつままれたような心地で、リムジンに乗り込んだ。
ともだちにシェアしよう!