17 / 98

第三章・4

 郊外にある、源家の屋敷。  ベッドタウンがまるっと一つ入るほどの広い敷地に、その大きな屋敷は立っていた。  代々続く源家の曽祖父が建てた、西洋館だ。 「幸い空襲を免れてね。今は内装を変えたり、耐震補強工事を行ったりしている」 「そうですか」  重厚な門から入って、緑の木立を数㎞走っただろうか。  ようやく屋敷が見えてきた。 「すごい……、美しいですね」 「気に入ってくれて、嬉しい」  一見レンガ造りに見えるが、それは表面にわざと傷をつけたスクラッチタイルだ。  外から見える太い柱には、彫刻を施した大華石が豪華さを演出している。  突き出たバルコニーは優雅なアーチに支えられ、その下に数十名の男女が並んで当主の帰りを待っていた。 「おかえりなさいませ」 「おかえりなさいませ、真輝さま」  うやうやしく頭を下げる使用人たちの間を、真輝は歩く。  その隣に、沙穂を従えて。 (うわぁ。緊張する)  我知らず身をすくめ、沙穂は歩いた。  真輝にもらったバラの花束を、大切に胸に抱いて。  そのバラで、使用人たちは理解した。 (彼が、真輝さまの新しい想い人だ)  失礼のないようにしなくては。  緊張は、沙穂だけのものではなかった。

ともだちにシェアしよう!