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第四章・4

「真輝さん、僕があなたを好きになった理由を知りたくないですか?」 「何を今さら。私は源家の当主だよ? 好きにならないわけがないじゃないか」 「あなたを好きになった時、僕はその正体を知りませんでした」  真輝は、沙穂から顔を遠ざけた。  そして、不思議なものを見るような目で、彼に視線をやった。  キスの余韻で頬が熱かったが、沙穂は続けた。 「僕が清潔なシャツをいつも身につけてる、って言った時に褒めてくださいましたよね」 『君はシャツを毎日洗うかい?』 『はい。お客様の前に出る以上、清潔でなくてはなりませんから』 『それは良い心がけだ』  嬉しかったです、とかすかにうつむいた沙穂を、真輝は見つめた。  先ほどまでの視線とは違い、穏やかなものだった。 「確かに私は沙穂と出会って数時間しか経っていないが、その間に触れ合った君の全てが好きだ」  その容姿、その香り、その心根、その優しさ。 「だから後はもう、早く君が欲しくてたまらない。この身体、私に預けて欲しい」  壮大な口説き文句に、沙穂はすっかり参ってしまった。

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