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第五章 もっと大切に

 ダイニングで目にした夕食は、まるで料亭のコース料理だった。  旬のお刺身盛り合わせ、天ぷら、季節の煮物、酢の物、旬の焼き物、蒸し物、握り寿司、お吸い物。  全て少しずつの量ではあるが、一口で満足できるほどの味、舌触り、歯ごたえ、香り。 (こんな料理を三食毎日食べてるんだな、真輝さんは) 「今日は体調不良を起こしてしまったので、ディナーは和食にしたんだ。量も少ないが、沙穂は平気かい? 足りなくはないか?」 「ありがとうございます。でも、大丈夫です。どれもがとっても美味しいので、満腹です」  デザートのシャーベットを銀のスプーンですくいながら、二人はそんな会話をした。  軽やかなピアノの生演奏の中、和やかな夕餉……、のはずなのだが。 (この大きなテーブルに、僕と真輝さんの二人きり?)  ご家族は? 「沙穂は痩せているので、もっとカロリーを取った方がいいな。たんぱく質も」  明日は健康診断をして、専属の栄養士をつけよう。  にこにことご機嫌な真輝だが、沙穂の言葉に一瞬だけ口をつぐんだ。 「真輝さんに、ご家族はいらっしゃらないのですか?」 「……家族、か」  それは、後ほど話そう。  真輝は一言だけで、控えていた使用人に椅子を下げさせ立ち上がった。 「君がバスを終える頃を見計らって、部屋へ失礼するよ」 「あ、真輝さん……。はい」 (僕、何か悪いこと訊いちゃったのかな)  真輝さまの、ご家族。  大富豪だから、訳ありなのかも。  心の内に小さな棘を刺した心地で、沙穂も食事を終えた。

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