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第五章・4

 南極の水、と沙穂はグラスを見た。 (どこまで贅沢でお金持ちなんだろう、真輝さん!) 「いつか一緒に行こう。南極へ」  そして、ペンギンと記念写真を撮るんだ。  そう言う真輝の顔つきは、柔和で優しい。  夕刻の時と同じようにベッドに腰かけ、沙穂の手からグラスを受け取った。  残りを飲み干し、さて、とでも言うようにこちらを向く。 (ああ、やっぱり続きをやるんだよね)  緊張した沙穂だったが、真輝はすぐにその身体を求めてはこなかった。  ただ、ディナーの時の話を続けてきた。 「私の家族だが」  いない。  誰一人として、いない。 「え?」 「3年前の飛行機事故で、両親を一度に亡くしたんだよ」 「そんな」 「私は一人っ子だったので、兄弟もいない。天涯孤独になってしまった」  でも、と沙穂は真輝のバスローブの袖をつかんだ。 「ご親戚は?」 「親戚か。叔父や叔母は、敵だ。両親が無くなるとすぐに、財産を狙って擦り寄って来た」 「……」 「すまない。暗い話になってしまったな」  髪を撫でてくれる真輝の手を、沙穂はそっと握った。

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