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第五章・6
温かな唇のぬくもりを分かち合い、沙穂はそっと顔を放した。
「正直なところ、僕はまだ自分の置かれた状況に戸惑ってます」
「それでいい。それが普通の感覚なんだろうから」
「ただ真輝さんの言う通り、この出会いがご両親の導きなら大切にしたいと思います」
もしかして、僕の父のいたずらなのかもしれませんし。
沙穂は、身体を真輝の肩に預けた。
二人でそうやって、しばらく目を閉じ、手を握っていた。
「明日、私の両親の写真を見せるよ」
「僕も、アパートから父や母の写真を持ってきます」
では、と真輝はベッドから立ち上がった。
「今日は疲れただろうから、ゆっくり休むといい」
「え? じゃあ、あの……」
「私も大きな運命のうねりに揉まれて、少々面食らっているところだ」
君は、もっと大切に扱いたい。
「私らしくない行為なんだが、要するにガツガツしたくない、ということだ」
「ありがとうございます」
真輝の好意を、沙穂はありがたく受け取った。
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