34 / 98

第六章・2

 センチュリーに乗って、沙穂は自分の住まいへ戻った。  もちろん、真輝も一緒だ。 「このアパートの一室に、住んでいるのか」 「狭いので、驚きますよ」  鍵を開け、中へ入る。  そこは確かに狭いが、部屋の主の性格をぴたりと表していた。  無駄なものが一切なく、きちんと片付けられている。  そうかと思えば、鉢植えがあり、小さなぬいぐるみが置いてある。 「今、お茶を淹れますね」  洗濯機を回しながら、沙穂は湯を沸かし紅茶の準備をした。 「クローゼットを見てもいいか?」 「どうぞ」  真輝がのぞいたクローゼットには、着回しのきくシャツやジーンズ、コートなどが下がっていた。 「スーツが無いが」 「僕、Ωですし高卒ですから、普通の就職は諦めました」  紅茶の茶葉がガラスポットの中で踊り、部屋には良い香りが漂う。  そんな中で、沙穂は自分の身の上を語った。

ともだちにシェアしよう!