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第六章・4
「幼い頃から、苦労したのだな。Ωを理由にいじめなど、卑劣極まりない」
「あの、真輝さんは。僕がΩで、イヤではないんですか?」
通説では、Ωは体力、知力、気力、何事に関しても劣っていると思われがちだ。
沙穂は、それを案じていた。
「Ωであっても、沙穂はきちんと高等教育を受け、卒業したのだろう?」
「でも……」
安心しろ、と真輝は沙穂の手を取った。
「私が君を、Ωだという理由で邪険にするなど、絶対に無い」
「……ありがとうございます」
(真輝さんの手、あったかい)
思わず、沙穂の目に涙が浮かんできた。
それは止めようとしても止まらず、彼の頬をつたい真輝の手にこぼれた。
(沙穂、今まで独りで気を張って生きてきたのだろうな)
真輝はその手を寄せ、沙穂を胸に抱き留めた。
長い腕でしっかりといだき、髪を撫で梳いた。
「ごめんなさい。なぜか、涙が」
「泣いていい。今まで耐えてきた分、全部泣くといい」
「真輝さん」
声もなく身を震わせ、むせび泣く沙穂。
彼の華奢な体を、真輝はその体温であたためた。
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