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第六章・6

 障害飛越競技用のポールを、軽やかに疾走しながら次々と飛び越していくサラブレッド。  そしてその上には、真輝がいる。  人馬一体となって、彼もまた障害を飛び越えているようだ。 「すごい。なんて、美しい」  沙穂は馬から降り、観覧席からそれをうっとりと眺めていた。  障害をすべてクリアし、真輝が沙穂の元へ馬を歩ませてきた時には、彼は夢中で拍手していた。 「素晴らしいです!」 「いや、この馬・ウラヌス号が優秀なんだ」  珍しく謙遜して見せる、真輝だ。 「最近は、仕事仕事でなかなか触れ合えなかったのに、よくついて来てくれた」  ありがとう、と真輝はウラヌス号の首筋を撫でてやった。  その様子を見ていて驚いたのは、トレーナーだ。 (真輝さまが、ありがとう、と。しかも、馬相手におっしゃった!)  彼の円い目に気づいたのか、真輝は重ねて言った。 「もちろん、いつでも最高のコンディションに馬を整えてくれている君にも、礼を言わねばならないな。ありがとう、これからもよろしく頼む」 「は、はい! ありがとうございます!」  トレーナーは、これまで見たこともない興奮した顔つきだ。 「沙穂のくれた言霊は、なんて威力だ。いつも冷静な彼を、あんなに発奮させている」 「真輝さんが言ったから、効果倍増なんですよ」  初めての乗馬は、二人にとってかけがえのない、きらめく思い出となった。

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