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第八章・5
沙穂は、真輝との会話を思い出していた。
『それに、僕はパーティーのための作法を身につけないといけないんじゃ……』
『大丈夫。今こうして私と話しているだけでも、着々と身についていっているよ』
(あれは、こういう事だったんだな)
ただ遊ぶだけではなく、セレブとしての会話に必要な知識を、真輝さんは教えてくれてたんだ。
(僕自身がお金持ちのふりをするのは、気が引けるんだけど)
それでも、よどみなく答える沙穂に、意地悪そうな青年は次第に黙ってしまった。
「沙穂、その調子でリラックスして。パーティーを楽しんで欲しい」
「はい」
(真輝さんがバックアップしてくれるから、頼もしいな)
そんな沙穂を、ゲストは好意的に見てくれたようだった。
彼の周りは、常に笑顔で包まれた。
ただ一人、離れたところから見つめる青年が。
先ほど沙穂に絡んでいた、意地悪な青年だ。
彼は、給仕の使用人をつかまえて、沙穂について尋ねた。
「白洲という子は、源さまの何?」
「それにはお答えできかねます」
その返事に、青年はポケットから光るものを取り出して給仕に握らせた。
メイプルリーフ金貨だ。
「真輝さまの新しい想い人、とうかがっております」
給仕はそっと答えると、皿を下げて行ってしまった。
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