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第九章・4

 開店時刻ぴったりに現れた客は、沙穂の期待を裏切り、真輝ではなかった。 「あの方は……」  昨晩のパーティーで会った、少し意地悪なカッコいい人!  青年は壁際の席に座ると、沙穂を呼んだ。 「この店のお勧めは?」 「はい。当店オリジナルブレンドは、多くのお客様にご好評をいただいております」 「じゃあ、それ。ブレンド、二つ」 「かしこまりました」 (二つ? お一人なのに?)  マスターがコーヒーを淹れる間中、沙穂は青年のことが気になって仕方が無かった。  なぜ、彼がここに?  偶然?   トレイに二つのブレンドを乗せ、沙穂は青年の席へ運んだ。 「サンキュ。これを、マスターに渡してくれないか」 「……金貨!?」  そこで青年は、声を張った。 「マスター。チップをはずむから、少し白洲くんを貸してくれ」  沙穂が慌ててマスターに金貨を渡すと、彼は驚いて声をひそめた。 「メイプルリーフ金貨だ。この重さなら、10万円はするよ」  君はやたらとお金持ちに縁があるねぇ、とマスターも驚きを隠せない。 「エプロン取って、お客様と話してきて。ウェイターがサボってる、と他のお客様に勘違いされちゃうからね」 「はい」 (でも僕は、真輝さん以外のお金持ちとのご縁は欲しくないけどな)  沙穂は小さく溜息をつくと、カフェエプロンを外した。

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