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第九章・5

「また会えて嬉しいよ。白洲 沙穂くん」 「どうして、僕がここで働いてるってお分かりになったんですか?」 「調べさせた。徹底的に、ね」  沙穂は、気味が悪くなってきた。  なぜこの人は、そんなに僕に執着するんだろう。 「パーティー会場では、どこの御子息かと思ってたけど。まさか一般人。しかもバイトくんだったとはね」 「失礼ですが、あなたは一体どなたですか? 僕に、何の御用があって訪ねて来られたのですか?」  確かに失礼だった、と青年は笑みを浮かべた。 「俺の名は、倉木 郷(くらき ごう)。第二性はα。半導体で金を稼いでる」 「クラキグループの……」 「知っているとは、嬉しいね」  知っているも何も、日本の半導体メーカーで数少ない、世界に対抗できる会社だ。 「それで。そのクラキグループの方が、僕に何の御用が」 「君に興味を持ってね。もしよければ、食事でもどうだい?」 「僕は今、勤務中です」 「カフェエプロンは脱いでいるんだ。オフだよ」  マスターに話をつけ、郷もまた半ば強引に沙穂を店から連れ出した。 (どうしてαの人って、お金持ちの人って、こんなに強引なんだろう!)  郷はアルファロメオに沙穂を乗せ、軽快に走り始めた。

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