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第十章 毒牙

 冗談はやめてください、と沙穂は怯んだ。 「俺は本気だ」 「嫌です。あなたのペットだなんて」 「俺はね、沙穂くん。欲しいものは何がなんでも手に入れる」  強くつかまれた手首を勢いよく引かれ、沙穂はよろめいた。  そんな彼の足を払い、郷はその胸に引き寄せ抱いた。  軽々と抱え上げ、大きなベッドに放り込んだ。 「やめてください」  郷が本当に本気だと悟り、沙穂は声を上げた。  だが、恐怖で大きな声にならない。  郷は容赦なく、沙穂の上に被さり、その衣服を乱した。 「ヤだ。いや、です。やめて……」 「安心しろ。俺に抱かれて後悔する人間は、いない」  無理に口づけされた。  分厚い舌が、咥内を蠢く。 (ヤだ。気持ち悪いよぅ。嫌だ……ッ)  その瞬間、郷は沙穂から口を離した。 「まさか、キスで舌を噛んでくるとはね」  しかしその行為は、火に油を注ぐ様なものだった。  欲情した郷は、余計に沙穂が欲しくなったのだ。

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