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第十章・5

 衣服を整えた郷は、まだベッドから動けない沙穂の髪をさらりと撫でた。 「俺はこれから商用で出かけなきゃならないが、沙穂はここにいつまでいてもいいからな」  部屋は今日一日借りている、と郷は言う。 「動けるようになったら、シャワーでも浴びて。ルームサービスも自由にとっていい」 「……」 「悦かったぞ、お前の身体」  笑いながら、郷は部屋を出て行った。  しばらく動けなかった沙穂だが、次第に媚薬の効き目も切れ、何とか動けるようになった。 「シャワー、浴びたい」  バスルームで、中に放たれた郷の精を掻き出す。  心は虚ろで、不思議と涙は出なかった。  バスローブは纏わず、自分の衣服を身につけた。  もう、一分一秒でも、この部屋にとどまりたくなかった。 「あれ? 着信」  携帯を見ると、電話のあとがある。 「……真輝さん!」  沙穂は、夢中でリダイヤルした。 『もしもし。沙穂か?』 「真輝さん」 『アパートにも、せせらぎにも、居なかったものだから。今、どこに?』 「……」  まさか、ホテルで今まで郷に抱かれていました、とは口が裂けても言えない。

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