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第十二章・2

「いいから、食べて。そして、感想を聞かせて欲しい」 「はい……」  ふわふわのオムレツを一口食べると、沙穂は目を円くした。 「おいしい!」 「それは良かった」  にっこりと微笑む真輝のまなざしが、優しい。  トーストにオムレツ。ヨーグルトに、サラダに、フルーツ。  夢中でぺろりと平らげた沙穂に、真輝はひとまず安心した。 (昨日のショックで拒食症になるかと案じたが、大丈夫なようだ) 「さて。沙穂は今からどうするんだ? また10日間、一緒にいられるんだ」 「真輝さんと遊んで過ごしたいところですが、僕はバイトに行かないと」 「では私は、『せせらぎ』で仕事をするかな」 「いいんですか?」 「心配で、君を一人にしておけないんだ」 「あ……」  沙穂の表情が、暗くなった。  そうだ。  また、あの人がやって来るかもしれないんだ。  でも……。 「でも、真輝さんは森永子爵さまと、お約束があったんじゃないんですか?」 「いいんだ。沙穂の存在に比べると、羽毛に等しい軽さだ」 (真輝さん、昨日と同じスーツ着てる)  同じシャツには二度袖を通さない、が信条だったはずの真輝さんが。  沙穂は、真輝にすまない気持ちでいっぱいだった。

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