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第十二章・3

(沙穂はああして、気丈にふるまってはいるが)  心配だ、と真輝は電車に揺られていた。  隣にぴったりと沙穂を立たせて、周囲に気を配る。 (彼は可愛らしいので、痴漢に遭うかもしれない!)  そのような不届き者がいたら、この私が許さない。 (許さないと言えば、倉木だが)  元は家電を扱っていた、倉木電機。  それが近年、半導体に着手した。  郷の代になってからは、飛ぶ鳥を落とす勢いで業績を伸ばしている。 (成金が、私の沙穂を。許せん!)  どうやって復讐しようかと考えたが、それより沙穂の心の痛手をケアすることが重要だった。  彼は、深く傷ついたに違いないのだ。 (もう二度と、繰り返してはならない)  沙穂を、守る。  あの、倉木の魔の手から。 「真輝さん」 「な、何だ?」 「具合、悪くありませんか?」 「いや? なぜかな?」 「ずっと黙って、表情が無いので」 「沙穂を心配していたんだが、逆に心配をかけてしまったな」  ふふふ、と二人で笑い合い、手を繋いだ。

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