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第十二章・6
何のつもりだ、と郷は目を凝らして書類を見た。
近づいた真輝の手にあったのは。
「婚姻届け!?」
沙穂が、郷より早く反応していた。
「私の記入欄には、すでに必要事項が書いてある。後は沙穂が書いて、戸籍謄本などを揃えるだけだ」
郷は、唇をゆがめて笑った。
「本気か? 源家の当主が、一般人のΩくんと結婚?」
「私は一般人のΩと結婚するんじゃない。白洲 沙穂という人間と結婚するんだ」
真輝さん、と沙穂が小さな声で名を呼んだ。
「沙穂。私と結婚して欲しい。生涯のパートナーとして、共に歩んで欲しいんだ」
「僕。僕なんかで、いいんでしょうか」
「君がいい。いや、君しかいない」
差し伸べられた真輝の手に、沙穂はそっと手を重ねた。
そこで真輝は、郷を見た。
「この通りだ。沙穂は、私の正式な婚約者。今後、妙な手出しをすれば、ただでは済まないと思いたまえ」
「酔狂なことだよ、全く。過去の自分を、顧みるといい。何度婚約破棄してきたと思ってるんだ?」
「沙穂は、過去の誰よりも美しい心の持ち主だ。私は彼に教わったことが山ほどある」
真輝は、怯まなかった。
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