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第十三章 お帰りなさい
婚約したお祝いに、寿司でもつまもう。
そう言う真輝に、沙穂はうなずいた。
「僕、いいお店知ってます!」
「それは頼もしい」
しかし沙穂が手にしたのは、マーケットのパック寿司だった。
「このお店、お魚が新鮮だからお寿司も美味しいんです」
「そ、そうか」
パックに入った握りずしを皿に盛り、海藻サラダやお吸い物を準備した沙穂だ。
「チープですみません。でも、これが僕の生活なんです」
「私が、沙穂の家で10日間過ごすと決めたんだ。君に合わせるよ」
(沙穂の暮らしを知らずして婚約者などと、片腹痛いからな)
それが口にしてみると、意外なことに旨い。
「パック入りの寿司とは思えないな。ネタが新鮮だ」
「でしょう!?」
「やたらと威張った職人の店で食べるより、ずっとおいしいよ」
「あ、真輝さん。口元にご飯粒ついてます」
沙穂は手を伸ばし、その米を取った後自分で食べてしまった。
「……」
「どうかしましたか?」
「い、いや。私は今、猛烈に照れている」
いかにも、新婚といった風情ではないか。
そんな真輝に、沙穂も頬を染めた。
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