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第十四章・2
「これは、お父様がお母様に贈られた、婚約指輪だ」
その前は、お爺様がお婆様に。
そのまた前は……、というふうに。
「代々、源家に伝えられてきた古い指輪だよ」
これを、沙穂に受け取って欲しい、と真輝は彼の手を取った。
「武井、立会人になってくれ。プロポーズは倉木の前でしてしまったので、験が悪くてな」
「そのような大役を、わたくしに!」
「君はこれまで、いつも私を見守って来てくれた。お父様、お母様の代わりを務めて欲しい」
「ありがたき幸せ……!」
では、と真輝はベルベットの小箱から指輪を取り出した。
小さいが最高純度のダイヤモンドがちりばめられた、逸品だ。
「結婚しよう、沙穂」
「はい、真輝さん」
武井の見守る中、真輝は沙穂の薬指に指輪をはめた。
「驚いたな。ぴったりだ」
「ありがとうございます。真輝さん」
「奥様の指輪が、あつらえたように馴染むとは。これも、運命でございますね」
目頭を押さえる武井に、真輝は軽快な声をかけた。
「さあ、忙しくなるぞ! まずは、部屋の引っ越しからだ!」
「はい!」
まずは奥様の遺品の整理を、と使用人を呼びに駆けて行った武井を見送り、真輝は沙穂にキスをした。
沙穂もまた、照れながら真輝にキスをした。
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