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第十四章・3
執務の合間を縫って、真輝は沙穂とティールームでお茶を楽しんだ。
「祝宴は、贅を尽くそう。国内はもちろん、海外からもゲストを招いて」
軽い躁状態の真輝に、沙穂は柔らかな笑みを寄こしながらも、小さく言った。
「そんなに大掛かりに行わなくても。それより、お願いがあるんです」
「何だろう?」
「その祝宴にかかるお金を、困っている人のために役立ててくれませんか」
何と、といったような顔で、真輝は口をぽかんと開けた。
「真輝さん、僕はこのお屋敷で暮らすだけで、毎日が祝宴のようなものです」
あまりにも贅沢で、目が回ります、と沙穂は言う。
「でも、この世の中には、食べることにも困っている人たちも大勢います。そんな方たちに、幸せのおすそ分けをしたいんです」
「沙穂らしい考えだな」
真輝は、指を組んだ。
だからこそ、私は彼を伴侶に選んだんだ。
「解った。祝宴は、身内や親しい友人でささやかに行おう」
「身内、って。もしかして、真輝さん」
「叔父や叔母と、復縁するよ」
私に万が一のことが起きた時、沙穂が頼る人間が必要だ。
そう真輝は言ったが、本心はまた別にある。
「ミナモトホールディングスの内部を、親類で分散させる。私一人で切り盛りしてたら、沙穂と過ごす時間がほとんど取れないからね」
真輝は、いたずらっぽくにこりと笑った。
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