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第十四章・8

「源家に入る御方に、こんな小さな喫茶店でバイトしてもらうのは気が引けるなぁ」  カフェ・せせらぎのマスターは、沙穂から受け取った披露宴の招待状を頭上に掲げて見せた。 「僕がお願いして、雇っていただいてるんですよ」  でも、とマスターは沙穂の方を見た。 「結構長く勤めてもらってるんだ。自動車学校の資金は、もう貯まったんじゃない?」 「はい。おかげさまで」 「結婚して、ここのバイトを辞めた後は、どうするの?」 「大学に進学させてもらおうと思ってたんですけど、やめました」 「過保護な源さまが、許してくれなかった、とか?」  いいえ、と沙穂は首を横に振った。 「真輝さんは、大賛成してくれたんです。でも……」 「でも?」 「昨日、病院へ行ったら」  そこで言葉を区切って、沙穂は腹に両手を当てた。  大切そうに、そっと。 「もしかして、赤ちゃん!?」 「……はい」  マスターの顔は、ぱっと晴れ渡った。 「おめでとう、白洲くん!」 「ありがとうございます」 「ああ、何だか孫ができたような気分だよ!」  沙穂もまた、武井が真輝を見守ってきたように、この男性に見守られていたのだ。

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