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第2話
「風!来てくれ、風!」
扉の前で大声で風を呼ぶ。
バタバタと走って来る足音がして、勢いよく扉が開いた。
俺が中に入ると扉を閉めた風が後ろから黙ってついて来る。
俺の持っている箱の中から聞こえて来る小さく弱々しい声が、俺達を焦らせた。
リビングに近付くと、風がスッと前に出て扉を開けてくれた。
ふわっと暖かい空気が身体を纏う。
その中心にあるストーブの前に箱を置いた。
「雷、見てもいい?」
「ああ。」
そう言って、立ち上がると横にどいた。
そーっと風が箱を覗き込む。
その顔が高揚し俺を見上げた。
「ダメだ。」
冷たく言い放つ。
風の顔が今度は怒りで赤くなった。
「まだ、何も言ってない!」
「言わなくてもわかる。ダメだ。」
「何でだよ?捨てられたって事は、いらないって事だろ?だから僕たちが拾って育てる。何でダメなんだよ?」
「ただの犬猫の話じゃない。」
「分かってるよ。寧ろ犬猫なら、村のそばに置いて来るよ。でもこれは、人間の領分じゃない。僕たち以外どうやってこれを育てられるって言うの?」
風が頬を膨らます。
その頬を指で突くと口からフーッと息を吐いた。
「もうっ!」
「怒るなよ。でもな、これは無理だ、ダメだ。風だって分かっているだろ?」
「じゃあ、これをどうするつもり?」
寂しそうな目で箱の中を覗き込む。
暖かな部屋に安心したのか、箱の中の生き物はスヤスヤと寝息を立てていた。
「早朝、俺の方に連れて行って置いて来る。」
「それこそダメだよ!雷、帰って来られなくなるだろ?」
「村の側に置いて来るだけだから大丈夫だ。」
「嫌だ!絶対に嫌だ!!」
風が俺の胸に縋り付いて泣き喚く。
「だって、そんなのバレるに決まってる。着いた時にはもう、雷包囲網が出来上がってる!絶対に行かないで!僕を一人にしないでよ!」
「風…」
「雷が行くって言うなら、僕が今からこの箱を持って、僕の方に連れて行って置いて来る!」
「それこそ、風が捕まるじゃないか!?絶対にダメだ!それだけは許さない!」
二人で顔を見合わせる。
はあと俺が大きなため息をついた。
それが合図かのように風が俺に抱きつく。
「ありがとう、雷!」
「流石にこれを村に連れて行くわけにはいかないもんな。」
箱の中を二人で覗き込む。
「双子かな?でも、少し髪の色が違う。」
ね?と言って、俺を見る。
確かに一人は青みがかった銀髪、もう一人は茶色がかった銀髪に見える。
「ああ、そうだな。兄弟か、あるいは親戚関係か。どのみちこの箱の中に入れておくわけにもいかないな。
今夜はここにマットを敷いて寝るか?」
「そうだね。」
「風はこの子達を見ていてくれ。俺がマットを持って来るから。」
「分かった…雷?」
「何だ?」
部屋を出ようとしていた俺が、風の方に振り返る。
「ありがとう。」
そう言って、風が唇を合わせる。
すぐに離れた唇を追いかけるように、その身体を抱き寄せた。
再び合わさった唇。
風がその隙間から俺を誘うように舌を出す。
その誘いに乗った舌が風の口の中に吸い込まれて行った。
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