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第6話
「雷、陸と水が帰って来ないんだけど、どうしたんだろう?」
俺の怒りをその身に受け止めた後、そろそろ二人が帰って来る頃だからと昼食の支度をしていた風が、少し困ったような顔をしてリビングのソファに座って本を読んでいる俺の元に来た。
「いつもの家だろう?間違えようもない一本道だ。そのうち帰って来るだろうよ。」
そう言って、見ていた本に目を戻す。
「そう…だよね。」
そう言ってはいるが、やはり心配だという表情のままで再び台所に立った。
しかし、台所から鼻と腹を刺激するいい匂いがする頃になっても、二人が帰って来る気配はなかった。
「ねえ、雷…」
風が心配顔で俺を見つめる。
「はぁ、分かったよ!」
「ありがとう!」
先程までの表情が嘘のようににこにこと玄関に向かう俺の為に扉を開ける。
「入れ違いになったら、合図をくれ。」
「分かった。一本道からどこか脇道に入っちゃったんだと思うんだ…お願いします。」
「人間に見られたら厄介だからな。行って来るわ。」
風に軽いキスをして外へ出る。
もう春も終わりの少し汗ばむ陽気。
散歩にはちょうどいいが、汗をかくのは嫌だな。
そんな事を考えながら、目の不自由な老女の家に向かう。
風達がとった木の実などを買ってくれる人間。
家から村はずれのその家までは森の中を通るとはいえ、間違えようのない一本道。
二人共、今までも風に頼まれて行っている家。
今更迷子ってわけでもないだろうに…。
「まったく、何してんだか…あいつら。」
心配と怒りが混ざったような感情にイライラする。
「くそっ!せっかく風に治めてもらったのに…」
体の奥深くから、感情が沸き立って来る。
「早く見つけねぇと…あぁ、くそっ!」
足早に老女の家に着く直前、二人が帰って来られない理由がわかった。
「客か…」
いつもの老女の匂いとは別の人間の匂いがぷんぷんしている。
多分、あいつらもいつもとは違う状況に驚いて、どこかに潜んでいるのかもしれない。
そっと、森の中に入る獣道に踏み込んだ。
案の定、あいつらの匂いがして来た。
「陸!水!俺だ、雷だ。どこに居る?」
静かに、しかしあいつらの耳に届く声で呼びかける。
「雷?雷なの?」
「水か?どこだ?」
聞こえた水の声にホッとする。
「今、出て行く。」
水の声が聞こえると間もなく、森の木立の影から二人が見えた。
「大丈夫か?」
かける言葉に二人が頷く。
「大丈夫、だけど木の実を渡せなくて…おばあちゃんの所に知らない人間がいるんだ。」
「ああ、分かってる。今日はもう帰ろう。木の実は明日持って来ればいいさ。」
二人共ホッとしたように頷くと、陸がその場にしゃがみ込んだ。
「どうした?」
「ほっとしたら…ハラへった。」
「僕も、お腹すいた〜。」
そう言って水もその場にしゃがみ込む。
「お前ら〜…風に言うなよ?」
二人が顔を見合わせてうん!と元気に頷く。
まったくとため息をつきながら、すうっと息を吸い込む。
目を瞑り気を高めた。
「雷、かっこいい!」
「そう言うのはいいから、俺の服を持ってさっさと乗れ。」
銀狼となった俺の背に木の実を持った水と俺の脱ぎ捨てた服を持った陸が跨る。
「しっかりと掴まってろよ!行くぞ!」
言うが早いか二人を乗せたまま、獣道を家に向かって走った。
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