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第7話

家に着いて、二人を下ろすと庭先で人に戻り服を着る。 「いいな、黙ってろよ?」 二人にもう一度約束をさせて、三人で扉を開けた。 「ただいまー!」 家中に響き渡る二人の声に台所から風が飛び出して来た。 「おかえり!良かった!二人とも心配したんだよ…どうしたの?」 「ばあさん家に、客がいたんだ。」 2人に代わり、俺が答える。 「おばあちゃんの家にお客様?誰だろう?おばあちゃん、家族はいないって言ってたし、来るような知人もあまりいないって言ってたけど。」 「匂いからして、男だ…若い男。」 うんうんと2人も頷く。 「隠れる時に少し見えたんだけど、ちょっと顔の感じが雷に似てた。」 陸の言葉に水も頷く。 「うん。それで、僕たちみたいな銀の髪だった…それと…」 口籠る水の顔を風が覗き込む。 「ん?どうしたの?」 「隠れる僕達を見たような気がしたんだ。それにイヤな笑いだった。」 水の言葉に今度は陸が頷く。 「俺も思った。なんか、ゾッとするような笑いだった。」 風がそれを聞いて俺の顔を見る。 その視線と俺の視線が合い、俺が頷く。 「おい、今夜中にここを引き払う…いや、今すぐだ。風、すぐに用意を!」 「分かった。水、陸、手伝って。」 風が2人の背中を押す。 「えー!俺、ハラ減ったよー!食べてからじゃダメ?」 「ダメだ!後でたらふく食わせてやるから、今は言う事を聞け!」 俺の危機迫った態度に2人の顔が青ざめる。 「雷、怖がらせないで。2人共、大丈夫だから。持っていけるだけのものを詰めるだけ詰めて、ここを出るよ。さあ、始めて!」 ぱんぱんと風が手を鳴らす。 その音に押されるように二人が部屋に入って行った。 「外を見て来る。風、終わったら呼んでくれ。」 そう言って、玄関に向かおうとする俺の背中に風が抱きついた。 「雷、どうしよう。僕…怖い。」 振り返って風を抱きしめると大丈夫と耳元で囁いた。 「俺がいる。俺がお前も陸も水も守る。大丈夫だ。それより、感情制御に支障ありだ。風、後で頼むな。今夜は多分…」 「いいよ。雷の全てを受け止めてあげる。だから…大丈夫。」 顔を赤くして俺の胸に顔を押し付ける。それを顎を掴んで上に上げさせると、唇を合わせた。 「んっ!」 「今は、これで我慢だな。じゃあ、行って来る。」 「気をつけてね!」 「ああ!」 後ろを振り返らずに扉を開けて外に出た。 「くそっ!何でバレたんだ…くそっ!」 落ちている石を勢いよく蹴ると、そのまま家の周りを歩き出した。 匂い。 婆さんの家で嗅いだ匂い。 あれには狼の匂いはなかった。 人間の匂いだった。 だが、二人の見たものは人狼だ。俺の仲間。家族。 ここまで追っ手として来るとなると、家が見つかるのも時間の問題。 歩きながら、あの日の事を思い出す。 風の手を引っ張って、村を出た。 追っ手として俺を追い詰めた時のあいつの事を思い出す。 「何で、雷がそいつと出て行くんだ?俺といてくれるって言ったのに!雷もそいつも許さない!」 「見逃してくれ!俺には風が必要なんだ!俺は風と家族になりたいんだ!」 「雷の家族は俺だ!そいつは狼じゃない!ウサギじゃないか?!」 「種族の問題じゃないんだ!俺は風を愛してる。だから家族になりたい。一緒に暮らしたいんだ。」 「イヤだ!雷は俺と一緒にいるって言った…どうしてもって言うなら、俺が風を殺す!」 ギラッとした目で風を睨みつける。 今にも飛びかかりそうなあいつより一瞬先に狼に変化して、風を背中に乗せて駆け出した。 逃げると言う選択は想定していなかったあいつが一瞬見せた隙。 横を通り過ぎる瞬間、後ろ足で蹴り上げて谷底に落とした。 「うわあぁぁあああああ!」 落ちて行く悲鳴。風の泣き叫ぶ声。その全てが今でも昨日のように思い出される。 「あれくらいじゃ、死にはしない。風、泣くのは後だ。俺にしっかり掴まってろ!」 そう言って、村から逃げ出した。 あれから十年くらいの時が過ぎ、村の事も思い出さない時の方が多くなっていた。 「まさか、今になって…あぁ、くそっ!」 いつの間にか、婆さんの家の近くに来ていた。 プーンと野生をくすぐる匂いに鼻を手で覆う。 中を見るまでもない…窓についた赤い模様。 それだけで十分だった。 時間は思っているよりもない。踵を返し、走り出す。服が脱げ、両足と両手が地を蹴る。 家に着き、そのまま一声鳴いた。 それを合図に三人が家から荷物を持って出て来る。 風が俺の背中に乗り、陸と水が狼へと変わる。 まだ、そんなに長い時間の変身はできないはず。 二人の荷物も背中に乗せて、負担を減らす。 ついてこいと言うように顎を振ると二人が頷いた。 駆け出した俺達の後ろから血と狼の匂いが追いかけて来る。 振り返る事なく、全速力で走る。今はただ、逃げる、逃げ切ってやる。 風を切る音だけを聞きながら、森を走り抜けた。

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