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第9話
そして、今の家に移って3年が過ぎた。
陸も水も、見た目が17、8歳の青年に成長した。
まあ、精神年齢はまだまだガキだが…。
小さい頃からよく似ていた2人は大きくなってもまるで双子のようだが、陸の方が少しだけ水よりもでかい。
それで喧嘩をするとすぐに陸が水に「ちび!」と言って煽るのだが、冷静な水はそれをうまく受け流している。
そもそも喧嘩自体、水が相手にしないので陸の一人相撲で終わっているしな。
それがまるで昔の俺と風を見ているようで何とも居心地が悪い。
ついやめろと大声を出し、陸に拳骨をお見舞いして強制終了させてしまう。
その度に風にふふっと笑われるのが、本当にもう照れ臭くて、つい陸に八つ当たってしまう。
最後は風に俺にやられたと甘えに行く陸を、やっぱり俺がひっぺがし、それを水が呆れた目で見ている…
俺達の暮らしはそんな事の繰り返しで流れていった。
ただ、夜になると風が俺に身を寄せて「怖い」と囁くようになった。
見た目よりも腹の据わっていた風が、あの事では思いのほかダメージがデカかったのは想定外だった。
子供達だけで使いに行かせる事もなくなり、目の届く範囲でしか遊ばせない。
水に関しては、元々がそんなに外が好きなタイプではないので特に支障はなかったが、問題は陸だった。
2、3日、外で遊べないとイライラしてウザったい。
そこで仕方なく、俺が釣りやちょっとした狩に連れて行く。
そんな事もあって、陸と俺、水と風とで過ごす時間が長くなっていった。
少しどんよりとした今にも雨の降りそうな日の朝、いつも通り水を連れて風が木の実をとりに出かけた。
「朝食はできてるから、陸にも食べさせてね。喧嘩、しないでよ!」
念を押すように言うと、庭で待っていた水と連れ立って森の奥に消えて行く風を、なんとなく窓から見ていた。
言われたように起きてきた陸と朝食後、やっぱり喧嘩しそうになった陸に拳骨をお見舞いして黙らせるが、いつもより遅い2人に陸が拗ね始めた。
「俺も行けばよかったぁ!雷とじゃつまんない!風の所に行ってきていい?なぁ、雷ってばぁ!!」
行かせてもいいが、風に俺が怒られるんだよなぁ。
ちっと舌打ちすると、陸が俺が寝転んでいるソファに近付き、俺の足を自分が座るスペース分折り曲げた。
「行こうよ!なぁ、雷ってばぁ!」
ソファに座り、俺の折り曲げた膝に頭を乗せて俺を揺する。
「うるせぇなぁ…行き違いになったらどうすんだよ?!もう少しで帰ってくるだろうから、静かに待ってろ!」
「雷のケチ!」
「あぁ?!」
「わぁ!雷が怒ったぁ!!」
陸がピョンとソファから飛び降りる。
まったく…仕方ねぇなぁ…
だが、いつもよりも帰りが遅いのは確かだ。
少し胸騒ぎをおぼえ、陸に声をかける。
「手紙書いとけ!…支度してくる。」
「分かった!!」
むすったれていた顔が一瞬でキラキラと輝き、そそくさと紙とペンを手に机で手紙を書き始めた。
それを見ながら部屋に戻り、部屋着を脱ぎ捨てて動きやすい服に着替えると、扉を開けた。
陸がすでに玄関の扉を開けて俺を待っているのが見える。
しかし、こんなに遅いのは珍しいな…
先ほどまでは小さな芽程だった心配が、気になった事で今や心の大半を占めるほどに成長してしまった。
「大丈夫…だよな。」
自分に言い聞かせるように呟くと 玄関を出て森に向かった。
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