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第10話

「風達はいつもこの辺で木の実をとっているんだけどな…いないのかな?」 陸が俺を案内して森の奥の木の実がなっている木々のある場所に来ると、キョロキョロと辺りを見回す。 「風!水!どこにいる?返事をしろっ!!」 心のざわつきに我慢できず、突如出した大声に陸が驚いて俺を見上げた。 「雷、どうしたんだよ?」 「連れて行かれた…くそっ!」 すでにここにくる直前から嫌な思いが心を占め始めていた。 いるはずの、いや、いたはずの2人の匂いが消えている。 誰かが故意に消さなければ、こんな風にはならない。 「くそっ!!ここなら大丈夫だと思ったのに…許さねぇ…俺の風に手を出す奴ら、全員ぶっ殺す!」 止められない怒りに耳が立ち尾が総毛立つ。 目は吊り上がり、いつもは隠している牙が口の中でギラッと光る。 「雷…怖いよ…」 陸がいつもとは比べ物にならないくらいの俺の迫力に、涙目になり、その場にへたり込んだ。 それを見下ろし、考える。 こいつを連れて行くべきか、否か。 「おい!」 差し出した手にひっと言って、尻をつけたままで後ずさる。 「お前は残れ!」 そう言って、服を脱ぎ捨て狼の姿になると、脱ぎ捨てた服を咥えた。 「雷!どこに行くの?僕、1人は嫌だよ!!」 涙声で訴える陸の顔は見ずに、2、3歩後ずさると踵を返して森の中を走った。 「雷!置いてかないで!僕も行く!雷ー!」 たたたと俺の後ろからかけてくる足音が聞こえ、仕方なく後ろを向くと、遥か後方に陸が狼の姿になって追いかけてくるのが見えた。 「ちっ!」 舌打ちをして立ち止まる。 追いついてきた陸を人の姿に戻すと、俺の服を持たせて背中に乗せた。 「雷、風も水も大丈夫だよね?」 涙声で心配そうに尋ねる陸に、頷くと一心不乱に駆け出した。

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