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第14話
「水、大丈夫?」
優しく頭を撫でられ、水が目を覚ました。
「風、お早う…あ、風の方こそ大丈夫?」
一瞬で全てを思い出し、風の体を気遣う。
「大丈夫。大丈夫だけど…もう、雷とは会えない。もう…愛してもらえない…」
そう言って、風の肩が震える。
「何で?何でそんな事言うの?雷は絶対に風を受け入れてくれる!あんなの、あんなの絶対に違う!無理矢理にあんな事っ…!」
最後の方は風に抱きついて泣きじゃくる。
「水、ごめんね?嫌なもの見せちゃって…ごめんね、水。」
「風は悪くない!全部、あの男が悪いんだ!風は何も悪くない…また雷と陸と四人で暮らそ?きっと雷が助けに来てくれるよ…ねぇ、風?」
その時バタンと扉の開く音がして、にやにやと笑いながら光が男を伴って入って来た。
「おい!」
男に向かって顎をしゃくると、頷いて抱きしめ合う二人を無理矢理引き離し、水をベッドからおろして再び縛り上げる。
「また、邪魔をされたら面倒だからな。これを咥えさせておけっ!」
ポンと男に猿轡を投げるとそれを受け取った男が嫌がる水の口に付けた。
「お前は呼ぶまで外にいろ。そいつは、そうだな…その椅子にでも座らせておけ!」
言われたままにして、静かに扉の前で一礼すると男は出て行った。
じっと状況を見ていた風が隙をついて光の横を走り抜けようとする。
しかし、ほんの一歩踏み出す前に光の腕が伸びて風の腹に回った。
そのままぐいっと倒され、再び光に馬乗りにされる。
「やだ!嫌だ!許して、もう嫌だ!」
「許す?何を勘違いしてるんだ、風。俺はお前を愛してやるって言ってるんだ。雷の代わりにな。」
優しく顔を撫でられ、風がビクッと身体を揺らす。
「僕のこと…雷を奪った僕の事を愛す?」
「ああ、そうだよ風。愛して愛して、俺じゃなきゃイけない身体にしてやる。」
ニヤッと笑う光が舌で唇を舐めるのを見て、風の顔が青ざめる。
「嫌だ!やめて!やめてよぉ!」
バタバタと手足をばたつかせる風の目の前にあのガラスの小瓶が出された。
「嗅げ!」
「んーーーーーーっ!」
それから逃げるように身体を捩る風の耳元で光が囁いた。
「お前が嗅がないなら…そうだな、あの
子供にこれを嗅がせようか?」
ばたつかせていた身体がピタッと止まる。
「何…言って…」
「ああいうガキとやりたいって奴もいるんだよ…風。お前が嗅がないなら、あのガキに嗅がせるのも一興だろう?」
風が唇を噛み、化粧台のようなものの前にこちらに背を向けて座らされている水を見る。
「どうする?嗅ぐ気になったか?」
水の背中を見つめ続けたままで風がこくんと頷くと、光が瓶を風の手に握らせた。
「自分で開けて、嗅ぐんだ。」
握った瓶を涙目で見つめながら、震える手で風が瓶の蓋を開ける。
ガタガタと水が身体をばたつかせ、座る椅子が音を立てた。
「ガキ、うるせーよ!お前の代わりに風が瓶の中身を嗅ぐんだ。その鏡で見てろ!」
水が目の前の鏡を見ると、そこにはちょうど風と光の姿が映っていた。
「光っ!」
風が光を睨みつける。
「あの時は、ただ怖がっていただけだったのにな…守る者があることの強さ…か。でもな、立場を弁えろ…お前の守りたい者も、俺の手中にあるという事を忘れるなっ!ほら、さっさと嗅がないとガキに嗅がせるぞ。」
「…っ!」
意を決したように風が瓶の中身を嗅いだ。すぐに体から力が抜け、手から瓶が落ちそうになるのを光がすんでのところで取り上げ、サイドテーブルに置く。
「風、もう効いてきたのか?そうやってもがいても動けず、刺激を我慢する姿、最高だな。これは雷も手放せない筈だ…ははっ、睨むなよ、風。これから朝まで可愛がってやるからさ。お前が俺じゃなきゃダメってなるまで、抱き潰してやるよ!」
「………っ!」
風の身体に申し訳程度にかかっていた毛布が床に落とされ、明るい光に風の裸体が照らし出される。
「震えてやがる…これを雷はどうやったんだ?優しく撫でたか?それとも…咥えたか?」
光の口が風の尾に近付く。
「それだけはやめてっ!やめてってば、光!やだぁああああああ!雷、助けて…雷ーーーーー!」
風の助けを求める叫びは届くことなく、光の口が風の尾を咥えた。
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