しばらくそうやって二人で抱き合っていたが、扉の外が騒がしいのに気が付いた風が毛布を纏ってふらふらしながらも扉に向かう。 水がベッドから飛び降りて、風の横に近付くとその体を支えた。 「ありがとう、水。」 「何だろう？」 扉は鍵がかかっているために開けることは出来ない。 水が扉に耳をつけて、じっと向こう側を伺う。 「…雷だ！雷の声がする！風と僕の名前を呼んでる！…陸？陸の声もするよ！風、二人が来てくれたんだよ！風？」 風にも届き始めた雷の声に、目に涙を浮かべながらも風が後ずさる。 「風？何で、戻るの？」 「僕は…もう雷に愛してもらえる資格はない。もう、僕は雷に会えない。」 水が風に近付こうと扉から離れようとした時、ダンダンと扉を叩く音がした。 「風！水！ここか？いるなら返事をしろ！」 雷の怒号にも近い大きな声が二人の耳に入った。 「雷！ここにいるよ！風も一緒だよ！」 水が声を張り上げると、陸の声が聞こえた。 「鍵がかかってるよ。水、そっちから開かないのか？」 「陸、来てくれたの？鍵は外側からしか開かないみたい。」 「ちっ！陸、水も風も扉から離れてろ！」 水が風が座り込んでいるベッドに向かう。 ダーン、ダーンと大きな音と共に扉が大きく揺れる。 何回かの後、耐えきれなくなった扉がミシッと音を立てて勢いよく開いた。 「風！水！」 扉の向こうから金色の大きな狼が現れた。 駆け寄ろうとした水が、風の腕を握る。 「だれ？」 「あれが雷の本当の姿だよ。さあ、水は行って。」 そっと水の腕を離してその背中を押す。 「ダメだよ！風も一緒じゃなきゃ！僕も帰らない！」 風の前に立ち塞がるようにいる水に、雷に服を渡した陸が近寄る。 「水も風も何をやってるんだよ？さっさと帰ろうよ！」 陸の伸ばした手を水がはたき落とす。 痛みと突然の事に陸が怒り出した。 「何すんだよ？！せっかく助けに来たのに…何なんだよ…ったく！」 その陸の肩を服を着た雷が掴むと、自分の後ろに追いやった。 黙ってじっと雷を見つめる水と、明らかにそれとわかる姿の風を見る。 「水、よく頑張ったな。辛かったな…遅くなってすまなかった。」 そう言って水の頭を静かに撫でた。 瞬間、水の目からは涙が溢れ出し、雷の胸に飛び込んでいた。 「雷！僕、風を守れなかった！だから風がもう帰れないって！ここに残るって！やだよ！僕は風と雷と陸と暮らしたいんだ！風がいないのなんて嫌だよ！」 泣きじゃくる水の頭を撫でながら、俺の怒りは沸点に達していた…こんな事で俺から離れようとする風。 俺はそんな小さい男に見えるのか？！ それでも優しく水を撫でながら話した。 「困った風だな。水、俺が風を連れ帰らないわけがないだろう？なぁ、風？」 まとっている毛布に隠れるようにしている風に声をかけると風が「来ないで」と今にも消え入りそうな声で言った。 そっと水を陸に引き渡すと、俺はその言葉が聞こえなかったかのようにゆっくりとベッドに近付いた。