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出会い−2
風と出会ったのは金狼となって数年後。
金狼…見た目もデカく力も銀狼とは段違い。その代わり、エネルギー消費もでかく、長時間なり続けるのはかなり厳しい。
そもそも金狼に覚醒できる者自体、その世代に一人いるかいないかと言う稀有な存在だ。
そしてその代償もでかい。感情が昂ると制御出来なくなり銀狼化する。通常の銀狼化の場合は人としての理性やモラルを保っていられるが、この銀狼化ではそんなものは一切なくなり、凶暴化する上にその間の記憶も一切ない。
感情を性欲に変じる事で落ち着くことができるのだが、その行為はかなりの激しさと時間が必要となり、相手がぶち壊れてしまう。
俺にも何人かの相手がいたが、泣きつかれ許しを乞われ、全員をその役から解くしかなかった。
しかし、そうすると今度は感情の昂りで狼化してしまう。見かねた親父が、村から出てはならないと言う規則を解き、俺に相手を見つけて来いと命じた。
規則では狼族以外の者とのそのような行為は固く禁じられているが、金狼にはその行為を受け入れられる者がこの世界のどこかに存在していると言う伝説じみた話があった。
親父はどうにもならない俺の状況に我慢出来ず、その伝説を見つけて来いと言ったのだから、その頃の俺の状況が相当なものだったと言う事だろう。
仕方なく村を出てあちこちをふらふらと歩き回っては見たが、初めての外の世界にどのように振舞ったらいいのかわからず、何度も狼として殺されそうになったり、迫害されたりしながらも伝説とやらを探し続けた。
そしてかなり辺境の地に辿り着き、その近くにあると言う村を見に行こうと歩いていると、フンといい匂いが風に乗って漂って来た。
それは本当にいい匂いで、我慢出来ずにその香りの方へ向かって行くと「風!」と言う焦ったような男の声が聞こえた。
その声の方に振り向くと、黒い毛のうさぎが草むらを隠れるように走るのが見えた。
そいつを見た瞬間、身体中の毛が逆立ち、その匂いに頭は痺れ、考えるより先にその兎の後を追って駆け出していた。
「風、こっちだ!!」
手招く人間とその兎の間に回り込み行く手を阻むと、ウサギは捕まる直前で長い耳をうまく使って真横に走り去って行った。
捕まえられそうで捕まえられない追いかけっこがしばらく続き、ついに俺は金狼化してその兎の後を追った。
「風!逃げろ!!村に入れるな!!」
人間が真逆の方にかけていくのが見えたが、俺の獲物はあの黒い兎。
今までとは比べ物にならない速さで兎の前に走り込んだ。
一瞬躊躇したチャンスを見逃さず首に噛み付いて咥えると、ジタバタするのを無視して背丈のある草むらに向かい、耳を前足で押さえつけるとそのいい匂いのする身体をベロンと舐めた
「やぁあっ!!」
兎の出すとは思えない甘い声にハッとして身体を離すと、俺の下にいたはずの兎が綺麗な顔と華奢な身体の人間に変わっていた。
「お前も…獣人か?!」
俺も金狼化を解き、人としての姿でそいつの前に立った。手を差し伸ばすとビクッとしながらも、おずおずと俺の手を握り立ち上がる。
「人狼…が何でここに?」
「ちょっとした人探し中なんだ。悪かったな、怖がらせて。」
俺の言葉に大丈夫と答えると、顔を赤くして下を向いた。
「あの…服を着たいんだけど…」
そう言ってもぞもぞと体を捩ったその動きでフワーっとあの匂いが鼻をくすぐった。
「なあ、あんた…風とか言われてたな?服を着る前に悪いんだけどちょっと…味見させてくれ。」
「え?!」
何もわからずにポカンとしている風の顎を掴むと唇を合わせた。
それまでもやっとしていた感情がスーッと引いていくのが感じられ、そのまま顎をグッと掴んで口を開かせて舌を捻じ込む。
ガクガクと風の足が震え、その体が崩れ落ちるのをあぐらをかいた上に抱き止めると、そのまま首筋を舌で舐める。
「はぁああん!」
甘い声が俺の耳から脳を刺激して、身体もその熱に我慢出来ず味見だけでは済まなくなってしまった。
「やめ…っ!あっ…やだ…おかし…くなる…ひぁっ!」
風のかわいいしっぽがふるふると震え、俺の下半身を刺激する。
風も嫌と言ってはいるが、抵抗するでもなく既に俺の指を何本もその身に受け入れ、俺のを飲み込めるほどに十分に解れていた。
「なあ、俺のこれ…入れてもいいか?」
あぐらの上からおろして地面に四つん這いにさせると、風が体を震わせながらもこくんと頷いた。
「でもっ!」
風の言葉に一瞬動きを止めた。
「でも、誰とでもこんなコトするわけじゃないから…あんたには抗えないんだ…よくわからないんだけど、身体も心もあんたを受け入れてしまう…名前すら知らないのに…あんたが欲しくて…僕、どうして…」
「俺もだ、風。お前の匂いが俺を痺れさせ、お前を見た瞬間からお前が欲しくて我慢出来なかった。俺は雷だ。風、俺のモノになってくれ!」
「雷…僕が雷のモノになったら、ずっと雷といられる?僕、雷にずっと、ずぅっと愛してもらえる?」
顔だけをこちらに向けて首を傾げる姿に我慢出来ず、ああとだけ答えるとその胎内を俺ので無理やりこじ開けていった。
「あああああっ!」
背中をのけぞらせ、痙攣する体を抱きしめると、振り向かせた顔にキスをする。
何人もの相手とこうして身体を合わせて来たが、こんなにも感情の安定を感じられたのは金狼となってからは風が初めてで、まさしくこいつが俺の相手だと、伝説の相手なんだと信じざるを得なかった。
「俺と暮らそう、風。もう一瞬もお前を手放すことはできない。いいよな?」
「雷について行く…もう、雷なしじゃ…はぁあっ!」
「風、俺もお前なしじゃ…っくぅ!」
風に激しく打ちつけていた腰をググッと押し付けると、感情から変じられた欲が、風の中を熱くした。
「追いかけっこしてどうしたの?」
陸が俺の体を揺さぶる。
「捕まえたさ。だからここに風がいる。あの人間は風の弟で…ま、色々とあったが、駆け落ち同然で風を連れ去った。うちの村でも、まさか兎を連れてくるとは思ってもいなくて、お前らも知っての通り、二人で逃げ出したってわけだ。」
「風は、雷と出会って幸せ?」
水が風に尋ねる。
「幸せだよ。だって…僕の特別な人だから…」
最後の言葉は呟くように囁くと、俺の肩に手をかけてソファから降りた。
「さぁ、お昼を作っちゃおう?水も陸も手伝ってくれる?」
二人がうんと頷いて台所に向かうのを見ながら、風の腕を引っ張って抱き寄せる。
「特別って何のことだ?」
問いかけた俺にふふと笑うと、黒い兎も金狼と同じなんだよと答えた。
「どう言うことだ?」
「僕の村の言い伝え。金狼の生まれ出る時に合わせるように黒い兎も生まれるんだ。それを探し当てられる金狼は稀。だから雷を見た瞬間に逃げた…銀狼だったけれど、僕には一瞬でそれだと分かったから。そして捕まったら逃れられないとも分かっていたから…でも、無駄だった。だって、出会った瞬間から…ううん、その匂いを嗅いだ瞬間から、もう雷が欲しくて欲しくて…そして、今もずっと欲しいんだ…」
そっと触れるように風が唇を合わせる。
「へぇ?じゃあ、その願い聞き入れてやんねえとな。」
「え?雷、何するの?」
がばっと抱き上げると台所で右往左往している二人に、風の怪我の治療してくると言って扉を開けた。
「雷っ!昼ごはん食べる気ないだろう!?」
陸の大声に、ひらひらと背中を向けたままで手を振った。
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