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風の嘘–1

雷と風におやすみを言って寝室に入ると、どちらからともなく唇を合わせる。 毎晩のようにベッドの上で身体を合わせ、激しく動いた後の荒くなった息が少し落ち着いた頃、ゆっくりと身体を離す。その頃になるといつもならうとうととし始める水が、今夜はちょっといい?と上半身を起こして、暗いままの部屋で話し始めた。 「ねぇ、陸。ちょっと相談したい事があるんだけれど、いい?」 水が俺に相談? それって、もしかして初めての事じゃないか?! 少しドキドキする鼓動と焦る気持ちがバレないように、なんて言う事のないふりをして返事をする。 「何だよ?」 ちょっとぶっきらぼうすぎたかな? 心配になり水の顔色を伺うが、暗い部屋の中で起き上がっている水の顔は横になっている俺からは遠く、しかも影になっているので表情までは確認ができない。 俺も上半身を起こして、水の顔を覗き込む。 「どうした?」 そっと頬に触れた手を水がその上から被せるように握って来る。 珍しく緊張してる…? 「水?」 呼びかけた俺の声に一瞬考えてから頷くと、思いもかけない名前が水の口から飛び出した。 「あのね、最近の風ってどう思う?」 「風?どうって…あの連れ去り事件の事からも漸く落ち着いたみたいだし、雷とも変わらずラブラブだし、特に変わらない、前と同じ風のように見えるけど?」 俺の答えにそうなんだよねぇと腕組みをして俯く。 水は何か違和感を感じているのだろうか?唸ったまま、じっと考え込んでいる。 俺も、風に対して何かおかしいと思うところがあっただろうか?と、最近の風を思い出してみるが、家の仕事をこなし、雷と俺達の面倒を見てくれて、いつもニコニコしている姿しか思い出せない。一時期あった、辛そうな、悲しそうな顔でスッと俺達から離れて部屋から出て行くなんて事も無くなったし…強いて言えば、家にいることが多くなったかな?前は風が水を連れて木の実を採りに行ったりしていたけれど、最近は雷が何かで外出している時に自分は家に残って、俺と水に木の実採りを頼む事が多くなった。俺は、水と2人きりで行く木の実採りは、部屋ではいつも押し殺している水の甘エロい声を聞けるので全然アリなんだけど、変わった事と言ったらそれ位かな? そんな感じでなんとなく思い浮かんだ事を口に出してみた。 「風って最近、俺達と一緒に行動しないよな?特に、雷を待っているのか知らないけれど、雷が外出している時には絶対に俺達とは外出しない…家では一緒にいるからあまり気にしなかったけれど、あの時間って何をやっているんだろう?」 俺の何気ない呟きに、水が顔を上げて俺の腕を掴みぶんぶんと頭を振って頷く。 「それなんだよ!僕さ…この前の木の実を採りに行った時、陸が無茶ばかりするから服が破れちゃって…そうだよ、あの時は本当に大変だったんだよ!風にバレないように処分しなきゃいけないし…もう、これからは外ではしないからね!」 いきなり話題が変わり、しかも突然の外ではやらない宣言に、何とかその話を忘れさせようと風の話を振った。 「それは後で話すとして、風がその時どうしたんだよ?」 「え?あぁ、そう、風が…居なかったんだ。」 「でも、風が出かけるような場所なんてないだろ?」 そうなんだけどと水がまたも俯いて考え出す。 暫くそうしてから、一回深呼吸をして話し出した。 「実はさ、その事を風に聞いたんだ。服の事は木に引っ掛けてって事にしたけれど、風にはバレてると思う…それはともかく、聞いたらどこにも行ってないって言うんだ。だって、僕あの時全部の部屋を見て回って、大声で風を呼んだんだよ?なのに、気が付かなかったって…おかしいよ、そんなの。」 水の声に嗚咽が混じる。 俺は風の言う事も信じたいし、水の言う事も信じたい。でも、悩んで悩んで悩みまくった挙句に俺なんかに相談しなければいられないくらいにずっと思い悩んでいたのかと思うと、今は水の言う事を信じたいと思う。 水の腕をぐいっと引っ張って抱き寄せると、分かったと一言囁いた。 「でもっ!風が僕達に嘘をつくなんて信じられないんだ!それでもやっぱりどうしても気になって…雷には言えないし…僕、どうしたらいいのか分からなくて…陸ぅ、風がまたどこかに行こうとしていたらどうしよう…僕、そんなのイヤだ!やだよう!」 そう言って、俺の胸に顔を埋めてわんわんと泣き出す水をぎゅっと抱きしめ、これからは俺も一緒だから、俺も一緒に悩むからと水をあやすように囁きながら、いつの間にか二人抱き合ったままで眠りについていた。

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