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風の嘘–3
「陸っ!陸っ!!」
ん?水が俺を呼んでいる?
「水?」
手を伸ばして名前を呼ぶと、水の手が俺の手をつかんで上半身を起き上がらせた。
「陸、ごめん!僕が陸にあんな事を言ったから…それで陸を追い詰めてあんな事…本当にごめん!」
頭を下げたままで俺に謝り続ける水の手を掴んで抱き寄せると膝に乗せてその胸に顔を埋める。
「陸?」
「俺こそごめん。水に初めて相談されて、舞いあがっちゃったんだと思う。水ときちんと話し合いをしてから行動しなきゃいけなかったのに…あ…俺…風を…」
風の床に倒れていく姿を思い出して、体から血の気が引いていくのが分かった。
寒くもないのに、体の震えが止まらない。
「陸っ!陸ってば!雷!雷、来てーーーー!!」
水がガクガクと震える俺の体を抱きしめながら、雷の名を扉の外に向かって呼び続ける。
バタバタと走って来る音がして、バタンと勢い良く扉が開くと雷が鬼の形相で部屋に入ってきた。
それを見ただけで俺は最悪の事態を覚悟し、水から身体を引き離してベッドから飛び降りて雷の前に土下座をすると、ともかく殺される事を覚悟して謝った。
「ごめんなさい!雷、謝っても何も変わらないし、どうにもならないって分かってる。でも、ごめんなさい!!俺のことは煮るなり焼くなりどうにでもして下さい!!」
床に額をつけ、雷の怒鳴り声と殴られ、蹴られる事を想像して目をぎゅっと瞑り、身体を固くする。
しかし、そんな俺に優しく暖かい声が聞こえ、柔らかな手がそっと触れた。
「陸?なんで謝っているの?」
「風?!風!!」
声を聞きその顔をみた途端、思わず飛びついた俺の衝撃に耐えられずに風が後ろに転びそうになるのを、雷がその背中をしっかりと支えて、ため息をついた。
「…ったく、こうなるからやめとけって言ったんだよ。」
「でも、ちゃんと雷が僕達を守ってくれる…でしょ?」
「守ったのは風だけだ。誰が陸なんか…!」
「またそう言う!だったら、この原因を作ったのは僕だからね。僕も雷からは守ってもらえなくなるってことだよね?」
風が僕を守るようにギュッと抱きしめて雷と言い合う。
すごく困った状況なんだけど、暖かな風に抱きしめられて、ふふと笑いが溢れた。
「お前、笑うんじゃねぇよ!」
雷が俺の頬をグニッとつねる。
痛いと言う前に風が雷の鼻を摘んで、だめ!と怒ってくれた。
雷が俺から手を離して、風の手を掴み上げると風の身体が宙に浮いたひょうしに俺がころんと床に転がった。
「陸!雷ってば、何をやってるの?」
風に怒られた雷がもう限界なんだよと風の耳に囁くのが聞こえた。
俺と同じように聞こえていたんだろう水が無言で扉を開けると、その横を真っ赤な顔の風を抱いたままで雷が水に後は頼むなと言い残して扉から出ようとした。
「雷、ごめん!!本当に、ごめん!!!」
叫ぶように縋るように謝る俺に背中を向けたままで雷が手を振った。
「週末は釣りに行くから用意しておけ!」
そう言って、足でバタンと扉を閉めた。
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