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僕の悩み事−1

どうしよう…でも、そんな事って…この僕が?! 陸なら分かる…だけど、僕? どうしよう…どうしたらいいんだろう? 鏡の中でキラッと光る一本の毛を見つけたのは数日前。 もともと青みがかった僕の銀髪の中でそれは日の光に当たって煌めいていた。 その時は綺麗だなくらいにしか思っていなかった。 それが今日になって、鏡を見ながら何気なくかき上げた髪の下から出てきた金色の束に青ざめる。 まさか、僕が金狼化? 確かに金狼の雷の髪は少し赤みがかった金髪だ。 だけど金髪だからと言って金狼化していると思うのも安易すぎる。 それでも… 鏡の中で頭を振る僕の髪がキラキラと煌めくのを見て、どうしようと焦る気持ちで一杯になる。 風に相談したくても、風は兎族。狼族のことを聞かれても答えはできないだろうし、かと言って雷に相談…出来ないよ。 雷が嫌いなわけでも苦手なわけでもない。ただ、今まで風に色々なことを相談してきたし、話をしてきた。 それは風とのあの拉致事件での心のつながりがあるんだと思う。あの時、風は僕の見ている前で雷の弟に無理矢理犯された。それはいまだに消えることのない辛く苦しい思い出。その事で心に傷を負った僕の為に、風はその身体を張って僕に愛されること、愛すること、身体を合わせることの幸せを教えてくれた。そんな風だから、僕は僕の全てを曝け出すことができた。何でも話せたし、相談できた。 でも、この現象は… 狼に関する、しかもそれもほんのひと握りのものにしか表れることのない現象。 やっぱり、雷に相談するしかないよな… 無意識にため息が出る。 気の重さが歩き出そうとする体の邪魔をする。 なんて言おう? 笑いながら軽い感じがいいかな? 「僕、金狼になるみたい!」とか? …ムリ。 だったら少し深刻そうな感じで、 「金狼化が始まったみたいなので、色々と教えて下さい。」? いや、まだ金狼化と決まったわけでもないし…まずは、金狼化がどういう感じなのかを聞いてみればいいんじゃないか? うん!と鏡の向こうの僕に向かって大きく頷いて、扉を開けると廊下をパタパタと走ってリビングの扉を開けた。 「雷!金狼化し始めた時ってどんな感じだったの?」 リビングの定位置のソファに風の膝枕で寝そべっていた雷が、起き上がりながらこちらを見る。 「どうした?水がそんな事を聞きたがるなんて珍しいな。陸ならいつもの事だからわかるんだけど。」 「俺が何?」 どこから出てきたのか、陸が扉を開けて顔を出す。 「俺が金狼化した時の事を水が聞きたいんだってよ。」 それを聞いた陸の目がきらんと光り、俺も!俺も聞きたい!と騒ぎ立てながら入って来た。 「水、何かあったの?」 風が心配そうに顔を覗き込んで来るのを、なんでもないよと手を振った。 「なら、いいけど。」 そう言って風は立ち上がると、皆のマグカップにコーヒーを入れて戻って来た。 雷が自分の分を受け取りながら、風の腕を取って膝の上に座らせる。危ないよと言いながらも風はにこにこと微笑んで、幸せそうに雷の顔を見つめている。 羨ましいなぁ。 そんな二人を見ながら、そっと横を盗み見ると、陸は受け取ったコーヒーに砂糖をドバドバと入れながら雷に早く話してよと急かしていた。 僕がため息をコーヒーで流し込むと、そんな僕達を見ていた雷が苦笑いを浮かべて陸に落ち着けと手で制しながら、何が聞きたいんだ?と優しく尋ねてくれた。 雷にそんな風に聞かれるのは初めてで、恥ずかしさに視線を合わせられず、少し俯き加減で答えた。 「金狼化がどんな感じで始まるのかを教えて欲しいんだ…例えば雷の髪が金髪になったのはいつからなのか?とか…」 雷がぽそぽそと喋る僕の話を聞き逃さないようにと身を乗り出し加減で聞いてくれる。 そして、風と顔を見合わせるとふっと笑いながら、分かったよと僕の頭を優しく撫でてくれた。 一瞬、金髪の事がバレてしまうと固くなった身体も、大きく分厚い雷の手の安心感と気持ちよさに、すぐに緩んでいった。 「話してやるよ。」 そう言って、雷はにっと俺と陸を見ながら笑った。

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