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雨降って…-1
「もう、いいよ!雷なんてもう知らない!どいて!」
「行く気、なのか?!」
「どうだっていいでしょ!いいから、退いてよ!」
朝の静けさの中、いきなり怒鳴り合う声が聞こえて水と陸が幸せな眠りから飛び起きる。驚きに顔を見合わせると、二人一緒に廊下に飛び出た。
廊下の先、二人の親代わりである雷と風の大声が二人の部屋の開いた扉の中から聞こえてくる。
水と陸が急いで駆け寄ると、扉の前で恐ろしい顔で仁王立ちしている雷と、その雷をどかそうとしている風が大声で怒鳴り合っていた。
いつもはどんなに雷が不条理なことを言っても、しても、ニコニコと笑って困った雷だねぇと言うだけで意にも介さない風の初めて聞く喧嘩する怒鳴り声に、無意識に水と陸が涙をこぼして雷を退かそうと手を出した。
「雷、やめてよぉ!風をいじめないで!」
そう言いながら突然に自分を廊下に引っ張ろうとする手に驚いた雷が、一瞬扉から離れた隙を縫うように風が部屋から飛び出して一目散に玄関から外に飛び出して行った。
それをポカンとした顔で見ていた二人が頭に衝撃を感じ、その後にすぐにやってきた激痛に我慢できずしゃがみ込んで頭を抱える。
それを見つつ自分のゲンコツにふーふーと息を吹きかけながら、雷が二人に向かって怒鳴り声を上げた。
「馬鹿野郎!風が逃げちまったじゃねぇか!ったく…このまま帰ってこないとかってなったら、お前ら…分かっているんだろうな?」
凄みのある声と気迫に二人の体が震え、恐怖から二人が抱き合う。しかし、すぐに水が何かに気がついたように陸の腕から身体を離すと、恐る恐る雷に尋ねた。
「風が、どうしたの?」
その顔を見なが雷がちっと舌打ちすると、吐き捨てるように言った。
「村に帰ってこいって伝言が来たって言って、出て行った。」
雷の答えに、二人がキョトンとした顔でその意味を考える。一瞬反応が早かった陸が玄関から外に飛び出し、水はその場でぼたぼたと廊下に水溜りを作るかのような勢いで涙を流し出した。
そんな二人の反射的な行動を見て、むしろ雷の心は少し冷静さを取り戻していた。しかし、だからと言って怒りの渦巻いた心はすぐにでも暴走しそうになっていた。
部屋にこもっていた方が良さそうだな。
「ったく。俺が全てにおいて悪いと思っているんだろう?んなわけあるか?!少しは俺のいうことを聞いてから判断しろってんだよ…くそっ!」
そう言って部屋に入ると、バンと扉が悲鳴をあげるような勢いで後ろ手に扉を閉めた。
その音にビクッと反応した水が両手で耳を塞いだまま一人で廊下に座り込んで泣いていると、いきなりその肩を掴まれて飛び上がるほどに驚く。手を離し、目だけを上に向けるとそこにはどこから入って来たのか、見知らぬ男が立っていた。
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