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雨降って…-3
どさっと雷が波の体をベッドの上に投げ捨てるように放る。
横倒れた身体を起こそうとする波の上に、金狼となった雷が立ち、その四肢で波の両手両足を踏みつけた。
「…雷さん…退いてもらえませんか?」
微笑みは絶やさず、それでも目だけは笑う事なく雷を静かに見つめる。
「風から頼まれたって事は、俺が暴走していた場合はこの身体を使ってもいいって事だろう?
風と同じ血脈か…少しは俺の感情も冷めるだろうし、好奇心もある。ずっと風しか抱いていなかったからな、たまには違う身体を抱くのも一興かもな…いいんだろう?」
そう言うと雷の体が萎むように人間の身体へと戻っていく。
それをただ見つめ続けていた波がくすくすと笑い出し、手が雷の頬に触れた。
「何がおかしい?」
その手を掴んでベッドに押し付けるが、それでも波の顔には一向に恐怖も焦りの色すらも見当たらない。
「お前、俺が怖くないのか?」
そう尋ねる雷に波が頭を横に振る。
「本当なら、金狼に組み敷かれた時点で自分の命の儚さを思い嘆く事になるのでしょうが、あなたのことは風にいろいろ聞かされてよぉく知っていますからね…大体、僕達よりも鼻も耳もいい金狼のあなたが、気が付かないわけないでしょ?」
そう言って、いたずらっ子のように笑う波に雷が頷く。
「だがな、今でも俺は風の事を怒っているし、お前ら兎を信用しているわけでもない。だから、あいつに村に戻ってこいなんて伝言は、金輪際送ってくるな!用があるならそっちが来い!」
そう言って波の体から退けようとする雷の腰を波の手が掴み寄せる。
「何だ?」
「僕ね、ちょっとだけ面倒くさいタイプでさ…」
波の潤んだ目と少し開いた口が部屋の空気を甘く塗り替えていく。
「他人のモノ、特に昔から風の持っているモノが何でも欲しくてさ…だから、風のモノである雷を僕のモノにしたいなぁ…なんて事を思っちゃったりしているんだけど、雷はどうかな?」
いつの間にかさんのなくなった名前で呼ばれた雷の身体が動く。
「お前、経験は?」
雷の目が波を値踏みするかのようなあからさまな視線を送りながら尋ねる。
「どっちも経験あるんで、大丈夫ですよ。」
しかし波はその視線を嫌がるどころか、むしろ面白がるように身を捩り、煽ってくる。
「そうか、だったら遠慮しなくてもいいって事だよな?」
そう言って、雷の舌がぺろっと唇を舐めると、そのまま波の身体に重なり合っていった。
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