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雨降って…-6

「おはよう、風、雷!」 昼過ぎにようやく起きてきた二人が揃ってリビングに入っていくと、陸と水と一緒にコーヒーを飲みながら談笑していた波がにこにこしながら声をかけてくる。 「え?!何でまだ波がいるの?」 風の驚きの声に、陸と水が大きなため息をついた。 「2人があまりにもヤバそうだったから、波が俺たちを兎の村に連れ帰ってくれたんだよ。それでさっき送ってきてもらって、少し休憩してもらってるの。」 「はい、2人ともどうぞ。」 水が雷と風の前に温かいコーヒーの入ったカップを置く。 それをありがとうと言いながら2人が受け取った。 「それで?…って、聞くまでもないか…僕も金狼の味、食べたかったんだけどなぁ…ねぇ、風?雷を一回貸してよ?」 とんでもない事を言い出すなと雷が心配そうに風を見るが、風の方は平常心でコーヒーを一口飲むと、貸さないよと静かに、しかし断固とした拒否とわかる声で言った。 「ケチ!」 波が頬を膨らまして言うが、風はクスッと笑って波のおでこを指でピンと弾く。 「何言ってるんだか!?大体、僕を呼んだ話はどうな…あぁ、そっちも仲直りしたみたいだね。」 風の手が波の髪をくしゃっと撫でると、キッチンに向かって声をかけた。 「いつまでもそこにいても仕方がないでしょ?さっさと出ておいで?」 雷が、ん?とそちらを向くと、キッチンから見知らぬ男がのそっと出てきた。 「誰だ?」 出てきた男の体格は兎とは思えぬほどにデカく、雷が一瞬たじろぐほど。しかしそれ以上に自分の家で少しは油断していたとは言え、これほど近くにいた男の気配に気づかなかった事に驚いていた。 「波のパートナーの静(せい)。波に付き合ってきてくれたんだね…いつもありがとう。」 風に言われて、静がうすと声を出す。 「何でわかったの?静がいるって?」 「コーヒーカップ…本当に忘れたのか、それとも僕を試したのか…どっちかはわからないけれど…ね。」 風に微笑みかけられて、静が再びうすと声を出した。 「結局、風には敵わないんだよなぁ。静はどこまでも風なんだもん。風だけ。僕と一緒にいるのだって、それが一番風に近いから…だからさ、雷を貸してよ!」 「ダメです。」 風が口を開くよりも前に静が口を開いた。 そのまま波に近付くと、椅子に座っている腰に手を回して持ち上げて肩に担ぐ。 「帰るの?」 風の言葉に静が頷き、波のばたつく足を手で制すると、そのままリビングの扉から逆方向へと向かう。 「扉から出て行ってね!」 風がコーヒーを飲みながら静に声をかけると、うすと頷いて扉に向かい直した。 「えー、波達もう帰っちゃうの?」 陸が文句を言うように大声を出す。 「夕飯くらい食べて、泊まっていけばいいのに…」 水も少し残念そうな声を出した。 「可愛いなぁ、2人とも…ねぇ、僕達と兎の村で暮らそうよ!」 波が突拍子もない事を言い出して、風が危うくコーヒーを吹き出しそうになった。 「なっ!」 「ダメ、俺達はここで風と雷と暮らしたいの!だから、そっちには行かないよ!なぁ?」 風が口を開く前に陸がそう言って水と顔を見合わせる。水もうんと頷いた。 それを見て、波が面白くなさそうな顔をするが、すぐに微笑んで風に言った。 「いい家族を持ったんだね、風は…羨ましいな。」 そう言って俯く波に風が静に抱えられたままの波に近づいて、その顔を見上げる。 「波も静と家族になるんでしょ?子供は、養子っていう手もある。波にだって持てるよ、波にとってのいい家族を。」 「そう…かな?」 静が2人のやりとりをじっと聞いていたが、波を肩から下ろすと風に向かって片膝をついた。 「風様、私は波様を幸せにしたいです。どうかその許しをいただけませんでしょうか?」 水と陸が顔を赤くし、雷は飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出す。 そして波は、その場に全身を赤くして立ちすくんでいた。 しかし、風と静だけはその合わせた視線を外す事なく無言で見つめ続けるだけ。皆も、その異様な雰囲気にただじっと見守り続けていたが、突如風の顔がいつものにこやかなそれに戻ると、静の肩に手を掛けた。 「僕はもう兎の村では何の地位もない、ただの風だよ?僕じゃなくて夏に許しを貰わないと…」 しかしすぐに静が首を横に振った。 「今でも私にとって風様は風様です。どうか許しを…」 波が呆れたように口を出した。 「夏からは許されているんだ。でも、静が頑なに風に許しをもらうってきかなくて…それで喧嘩になっちゃったんだ…」 「私は波様と喧嘩などしていませんが?」 静がわからないという顔で波を見るのを見て、波が大きなため息を吐き出す。 「僕は怒っていたの!はぁあ、ばかみたい…」 そう言って床にしゃがみ込む波に、具合でも悪いんですか?と心配する静を見て、これは大変そうだなと雷が苦笑する。 風も雷と視線を合わせて同じような顔をしたが、2人に向き直ると口を開いた。 「静の申し出による波との婚姻について、風がその許しを与える…これでいい?」 「風っ!」 「ありがとうございます、風様…波様をこの命に賭けて…」 「やだよ!」 静の言葉に波が割って入った。 「僕は静が命を失くしてまで幸せになんてなりたくない。大体、静がいないのに僕が幸せになれるわけないでしょ?ほんと、ばっかじゃないの?!」 言い切った波の顔を静が見つめる。 風は雷と顔を見合わせると、僕も同じだよと口を動かす。 それを見て俺もだと雷も頷いた。 しばらく動きのなかった静が突然波を再び肩に担ぐと、風と雷に向かって失礼しましたと言い残して、風の止める間もなく窓から飛び出して行った。 「もう、我慢できません。」 出ていく直前に静の発したその一言だけが部屋に取り残された。

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