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風と月-6

「風!風!起きてよ!」 水の声? そっと瞼を開けると、心配そうな顔の水が見えた。 「ここは?」 「もう、風ってば大丈夫?雨宿りしていた木だよ!ねぇ、雨も止んだし帰ろうよ?もう、お昼だよ?」 はっとして周囲を見渡す。暗かった部屋ではなく、明るい太陽の光にほっとため息をつく。 「…雷じゃない雷は?」 「え?何?あぁ!?風の首から血!?」 水が僕の首を見て青ざめる。 驚いている水に大丈夫だよと言いながら首に触れると、血は既に乾いている。 二つの牙が開けた穴もすでに閉じかけていた。 「あ、風を隠すように傘が置いてあったんだけど、これって誰のだろう?」 水が差し出した傘に見覚えがあった。 あの雷に渡されたけどいつの間にか落としていた傘。 「どうしようか?」 「置いておけばいいんじゃないかな?それと雷が心配するから、傷直しの葉がどこかにないかな?」 きょろきょろと見回す僕に水が探してくると言って駆け出すが、すぐにうわぁと悲鳴をあげて戻って僕の背中に隠れた。 「どうしたの?」 「ヘビ!ヘビがいるんだ!!」 水の指さす方に目を向けると、確かに青くて綺麗なヘビがこちらに顔を向けて、僕をじっと見ていた。その顔が横に向き、そちらを見ると数枚の葉が置いてある。 「傷直しの葉だ…」 水が僕の言葉を聞いてヘビを手を振ってどかしながら取ってきてくれた。 「何だろう?あのヘビ、まだ風の事を見ているよ。」 ちょっとと水に言ってヘビにゆっくりと近付く。 少し間をあけてヘビの顔を見られるようにしゃがんだ。 「雷の偽物さん…だよね?」 水に聞こえないように小さな声で尋ねる。 「僕、帰っていいの?」 「次は、俺のモノにする。」 「ダメだよ。僕は太陽のように暖かい雷が大好きなんだ。あの雷じゃなきゃ僕はイヤなんだ。だからさようなら。もう、月には会いに来ない。」 「月?」 「太陽の雷と月の雷。あなたは冷たくて寂しそうな夜の月のようだから…月の雷。でも、僕は太陽の側にいたいんだ。」 「そうか…なら月は夜の闇の中に戻るとしよう…しかしいつでもお前を見ている。その影に闇に気を付けろ。いつでもお前を俺のモノにできるんだからな。」 「ふふ…月は優しいんだね。それじゃあ、本当にさようなら…あ、月…」 振り向いた先にはもう月の姿はなく、土砂降りの雨の止んだ空には虹が出ていた。 (終)

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