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水の不満-1

「はあああ。」 これで何度目だろう? 陸との色々な事を思い出すたびに出るため息。 「はぁあああああ。」 「何?水ってばどうしたの?」 ちょうど僕の前を通り過ぎようとした風が驚くようにビクッと反応して声を出した。 「え?!…ううん、何でもないよ。ごめんね、ちょっと部屋にいる。」 「具合とか悪いの?」 心配そうな声が背中を追っかけてくるけど、大丈夫と言ってリビングの扉を閉めた。 「あれ?水、どうしたの?」 部屋の扉を開けると、一番会いたくない当人と目が合った。 今更部屋を出るわけにもいかず、仕方なく重い足を動かすが、つい口からこぼれる言葉。 「…陸、いたんだ…」 いけないと思いつつもがっかりした表情も顔に出てしまう。 「何だよ?!いたらいけないのかよ!?」 「別にそんなこと言ってないし…」 噛み付くように怒鳴る陸に心の中でため息を吐きながら、顔を陸から背けたままでベッドに向かい横になる。 「はぁあああああ。」 「でっかいため息なんかつくなよ…気分が悪くなる。」 陸がそう言いながらもベッドに近付いてくるのが足音でわかる。 そうしてベッドに腰掛けた瞬間、僕は起き上がってベッドから下りると窓際に向かった。 ちらっと視線だけベッドに送ると、可哀想な陸の手が、今まで僕のいた辺りを彷徨っている。 ちょっと意地悪な笑いが込み上げて来たのをぐっと我慢して外を見ると、雷が家に向かって歩いてくるのが見えた。 「雷だ!」 明らかに陸へのそれとは違う僕の声に気が付いた雷がこちらを見てよっと手を上げた。 部屋から飛び出て風には何も言わずに玄関の扉を開けると雷がちょうど目の前にいて、二人で笑い合う。 「おかえり、雷!」 抱きつくくらいの勢いで雷の腕を取り、家の中に引っ張るようにして入れると、おいおい、危ないぞと言いながらも、僕に優しく微笑みかけてくれる。 だけど… 「あぁ、ただいま…風は?」 もう!雷はいつだって風だ! 気が付いて玄関まで迎えに来た僕には軽く頭を撫でるだけで、まるで子供扱い。 僕だってもう、大人なのに… 僕たちの話し声に気が付いたのか、リビングの扉から顔を出した風を見た雷は、つまんなそうな僕のことはそっちのけでさっさと僕の手を振り解くと風に近付いて行った。 「おかえり、雷!あぁ、もう…水の前でダメだよ…んっ!」 「行く時と帰ってきた時のキスはいつもの事だろう?今更恥ずかしがるなよ…そんな風に拒まれると、むしろもっとしたくなる…」 リビングから出てきた風の腰を抱き寄せて雷がキスをする。最初はただの唇を合わせるだけのそれだったのに、風の言葉に煽られたのか、舌を絡め濃厚なキスに変わっていった。 目の前で繰り広げられている状況に顔を赤くしながらも、僕の目は雷の舌に釘付けで、無意識に唾をごくりと飲み込む。 「あーーーー!雷!廊下でエロい事すんなよな!」 部屋から出てきた陸の大声に、風がはっと気が付いたように雷の顔を両手で押し返し、もう!と頬を膨らます。 それを優しい目で見ながら、悪かったよと風の腰を抱いてエスコートするように二人はリビングに消えていった。 それがとても大人な対応で、僕は羨ましそうな顔をしながら雷の消えた扉をじっと見つめていた。 「本当に雷はどこでもエロばっかだな!」 ドンという衝撃に横を向くと、陸が後ろから勢いをつけて僕の肩を組み、なぁと同意を求めてきた。 「別に、大人なんだし…いいんじゃないの?」 そう冷たく言い放って、肩に乗っかった陸の手をどかすと、僕は二人を追いかけるようにリビングに入っていった。

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